(写真=PIXTA)
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日本、韓国、香港、シンガポールなどの子供たちに「将来就きたい仕事」に関する調査を行ったところ、日本は男女とも上位に「会社員」が入る“安定志向”を示す結果となった。シンガポールには「起業家」が入るなどお国柄を現しており、非常に興味深い調査結果といえそうだ。

調査対象は、台湾、タイ、ベトナムも含めた7カ国・地域。「将来就きたい仕事」について聞き、上位3位までを公表している。実施したのは人材グループのアデコで、日本では6歳〜15歳の男女各500人、その他は7〜14歳の男女、150〜1500人に聞いている。

日本男子は上位に「会社員」と「公務員」がランクイン

日本の男子のランキングは、1位から会社員、サッカー選手、公務員となった。女子はパティシエ、先生、会社員。男女共に会社員がランクインしている。男子は2位のサッカー選手はさておき、1位の会社員、3位の公務員と安定志向をうかがわせる結果となった。

韓国では1位から医者、芸能人、警察官と続き、香港では先生、医者、パフォーマー。台湾は先生、医者、歌手・俳優という結果となっている。韓国の芸能人がランクインしたのは、「韓流」人気が広がって以降、子供たちの間でも人気が続いているようだ。実際タレントやミュージシャン養成のためのスクールも増えているという。

シンガポールでは先生、警察官、起業家という結果だ。ここで「起業家」が入るあたりがシンガポールらしいといえそうだ。タイでは医者、アスリート、シェフと続いている。ムエタイ、ボクシングの人気が高いタイではアスリートがランクインしたのは納得の結果だ。そしてベトナムでは医者、先生、警察官となっている。どうやら医者と警察官はどこの国でも安定的な人気を誇っているようだ。

日本は親も子供に安定した仕事に就いて欲しがっている

この結果だけ見ると、子供たちの安定志向の強まりを感じさせるが、実はそうだけではないらしい。

本調査とは別に、ランドセルを製造・販売しているクラレが小学生の親に行った調査「子供に就かせたい職業」の2015年版の結果を見ると、男子の親は公務員、スポーツ選手、医師という順になっている。女の子の親では看護師、薬剤師、公務員という結果だった。

つまり親が「子供には安定した仕事について欲しい」と思っているのだ。もちろんスポーツ選手が入っているものの、公務員のほかランクインした、医師、薬剤師、看護師などは資格を取ることで、ある程度の安定が期待できる職種ではある。

厳しい財政赤字の中にあっても、国家公務員の給与とボーナスは2年連続引き上げられている。このようなニュースも日本の親たちの気持ちを公務員に向かせているのかもしれない。

親がマインドを替える必要がある

日本の労働人口の8割が会社員であることからも、それ以外の将来を考えることが難しいのかもしれない。会社員という生き方を否定するわけではないが、「なぜ会社員なのか」を自問することなく、「他にすることがないから」という消極的な理由で選んでいいものだろうか?

一見して、日本や韓国など「既に成長した国は安定志向が強くなる」と考えそうなものだが、実際はその他の調査国でも、比較的安定志向が強いようだ。とはいえ、ベトナムなど国情と歴史的な経緯から、先生や警察官といった職種が尊敬される傾向があるのかもしれず、限定的な調査結果やデータから一概に、ひとくくりに言えることは多くないだろう。

しかし、いみじくもシンガポールのランキングに「起業家」が入っていることは、環境によって子供たちのマインドは変わるということを示唆している。つまり親世代の考え方やつくりだす社会・環境は子供たちに影響するということだ。こと日本に限って言えば、親の世代も含めてここまで安定志向がまん延していては、起業などリスクを取った挑戦が行われにくくなる。リスクテイカーが尊重されない社会では、成長を期待するどころか、衰退は不可避といえるだろう。

もちろん、必ずしも起業することやリスクを取ることが最善とは限らない。「職人」のような生き方を求めてもいい。要は積極的、能動的な選択の結果として、「なりたい職業」を選ぶことが大事ではないかということだ。とかく親は子供に未来や夢を託そうとするものだが、こうした調査結果から分かることは、実は親が子供の夢や可能性を摘んでいるかもしれないという皮肉な事実ではないだろうか。(ZUU online 編集部)