「次のイノベーション」として注目されているホットトピックの一つが「次世代の自動車」だ。特に、現在も主流のガソリンなど(化石燃料)を燃料にして走るのではなく、電気や燃料電池、つまり水素で走行できる自動車が次世代の、新たな自動車として注目されている。

昨今では、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)として知られるようになった背景には二酸化炭素排出量の削減など、「環境配慮」型の製品にかかる期待があるからだ。実際、さまざまな場面でEV、FCVについての情報が開示されており、今後、どのような速さで普及していくのかも注目だろう。

しかし、「従来型のガソリンで走行する自動車は、消滅してしまうのか」。そんな疑問もある中で、世界電気自動車市場の成長について厳しい見方を示したOPECの予測が話題になっている。シェール革命で米国が世界一の産油国となり、原油安が続く中で、どのような見方が出されたのか、その信憑性を探っていく。

OPECは2040年のEV普及率は1%と予測

2015年12月23日、石油輸出機構(OPEC)は「ワールドオイルアウトルック」を発表した。同報告書によると、2040年になっても自動車の94%は化石燃料で走っており、電気自動車(EV)の普及率は1%程度にとどまるという。バッテリー技術が飛躍的に進歩しない限り、プラグを差し込んで充電する電気自動車のコンセプトは、大衆に訴求できない可能性があるというのが、OPECの見方だ。

一方、自動車業界ではちょうど、ロケット打ち上げ企業のスペースXの創業者として知られるイーロン・マスク氏率いるテスラモーターズに対抗して、昨年12月、フォード・モーターが、2020年までに45億ドル(約5300億円)をEVに投資する計画を打ち出したところだ。

ゼネラル・モーターズ(GM)も2017年型のEV「シボレー・ボルト(Bolt)」を披露したばかりだ。ドイツ自動車大手のアウディは、米国での販売台数に占める電気自動車の割合を2026年ごろまでに25%に増やすという目標を明らかにしており、公表されたOPECの予測はまさに、自動車勢のEVでの盛り上がりに、冷や水を浴びせるものだった。

IEA予測では2035年にはEVは10%超

他方、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオによる予測では、2025年のシェアについて、内燃機関自動車(ハイブリッド自動車などを含む)が95.6%、電気自動車4.4%で、2035年には、内燃機関自動車84.4%、電気自動車11.2%、燃料電池自動車4.4%になると予測。OPECの2040年のEV普及率の予測値に比べれば、2025年時点で4倍、2035年には10倍と、両予測値の間で大きな開きが生じている。

また、日本政府の予測も、OPECのそれにくらべれば断然、強気だ。経済産業省は、「自動車産業戦略2010」で、EV、プラグインハイブリッド自動車(PHV・PHEV)に重点を置いた「電池戦略」「資源戦略」「インフラ整備戦略」「システム戦略」「国際標準化戦略」を策定している。さらに「自動車産業戦略2014」では、IEAのシナリオ予測を踏まえ、2030年の乗用車車種別普及目標について、電気自動車およびプラグインハイブリッド自動車を15~20%、燃料電池車を3%以下と設定するなど、積極的な姿勢を示している。

世界の主要電気自動車市場をみる限り、EVがOPECの予測よりもっと急速に普及するという見方が主流派だとも言えそうだ。

EVの低普及率予測はOPECのポジショントーク?

そうした前提に立っているのか、米国のシェール革命、世界的な原油安と厳しい経済環境が続くOPECが公表したEVの低普及率予測に対しては、ポジショントークではないかという見方も浮上してきていた。

当面、世界中で燃料価格の低下基調が続く中、消費者に対して電気自動車のメリットをアピールすることは容易でないという意見もあるが、OPECにとっては、パリ協定が契機となって逆風が強まっているとも見られ、その苦境が低いEV普及率予測にも影響している可能性もある。

他方で、電気自動車メーカーにとっては、追い風が吹くことになりそうだ。日本政府も、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車等の普及促進を図る「クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金」を継続する方針を打ち出した。トヨタ自動車は、2050年までにガソリン車をゼロにする構想を発表しているが、OPECの予測を上回る普及が実現できるか注目される。(ZUU online 編集部)