円に比べて小さかった人民元安観測のユーロ相場への圧力

外国為替市場では、ドルに連動してきた人民元の切下げへの懸念が燻る。昨年8月、中国人民銀行が人民元の対ドル相場の基準値(以下、基準値)を市場実勢に合わせる切下げ調整に動いた際に広がった「通貨安競争」への不安が再燃している。

昨年8月の3日間の調整の後は、当局の介入もあり対ドル相場は安定、11月30日には国際通貨基金(IMF)が人民元を特別引出権(SDR)の価値を決める構成通貨として採用することを決定した。

その後、今年初にかけて切り下げ調整のペースが加速した。足もとは安定しているものの、昨年8月の調整でいったん解消した基準値と市場実勢との乖離が再び拡大、人民元安圧力が残る中、人民元の国際化への取り組みに慎重を期さざるを得なくなっている。

人民元安観測は米国の異例の金融緩和の見直しの動きに対応したドル高圧力と表裏一体だ。FRBが金融緩和からの出口を模索し始めた13年以降、多くの新興国から資本の流出、通貨が対ドルで大きく減価した(図表3)。

この間、第3の国際通貨・円と第2の国際通貨・ユーロも、それぞれの通貨当局が追加緩和に動いたことで、対ドルで減価した。主要貿易相手国・地域に対する総合的な為替相場を示す名目実効為替相場のベースでは、ドルは13年初からおよそ3割上昇している(図表4)。

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ドル高圧力は、FRBが追加利上げに動けばさらに強まる可能性がある。ドル連動で人民元の一層の割高化が進む事態を回避するため、仮に中国人民銀行が、為替政策を、ユーロや円などからなる通貨バスケット連動型などにシフトすれば対ドルでは人民元安となる。外貨準備高の減少も、中国のドル連動型の為替政策の限界を示すものと捉えられる(図表5)。

中国の外貨準備は、15年12月末時点も3兆3300億ドルと依然巨額だが、4兆ドルが目前に迫った14年6月のピーク比で6600億ドルが減少している。中国の経常収支は08年のピーク比では減っているが黒字であり、外貨準備の減少は、ほぼ一貫して流入超となってきた準備資産の増減を除く資本収支が流出超に転じていることによる(図表6)。

資本は主に「その他投資」、つまり貿易信用、貸付・借入、現預金など銀行が経路で流出している。資本規制がある「証券投資」の金額は小さいが、15年は赤字に転じた。「直接投資」収支の黒字も、対外投資の拡大と対内投資のピークアウトで縮小している。

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