円に比べて小さかった人民元安観測のユーロ相場への圧力

年明け後の市場の動揺、外国為替市場の緊張の高まりの、ユーロ相場への影響は円に比べて限定的だった。円の対ドル相場は年初の1ドル=120円台から116円台まで円高が進んだが、ECBが為替相場の指標として重視する名目実効為替相場のベースで見ても、16年に入ってからの円高傾向はかなり明確だ(図表4)。

他方、ユーロは、昨年12月の政策理事会を挟んで事前の追加緩和への期待と追加緩和の内容への失望で大きく動いたが、年初からの動きは比較的小さい。

21日の追加緩和方針の表明は、ユーロ高圧力への警戒よりは、金融市場や世界経済全般の不確実性の高まりや、原油価格の下落による低インフレがさらに長期化する見通しとなったことへの対応という意味合いが強いようだ。

ドラギ総裁も記者会見で、為替相場に関する質問には、「政策目標ではない」という常套句に加えて、「(名目実効為替相場には)様々な国の政策が反映される」として、通貨安誘導の狙いはないことを示唆した。

総裁は、中国経済についても、「概ね想定していた範囲内の緩やかなペースで減速している」との見方を示し、「原油や国際商品への影響が想定以上となったことでユーロ圏の見通しが下振れた」と説明した。

中国の政策に対しては、市場の一部では、年初の導入から4日目に株価のサーキットブレーカー制度の停止に追い込まれるなどの試行錯誤に不信感が広がっているが、ドラギ総裁は、「責任ある行動をとるという評価を獲得しており、過去2週間の政策は、しっかりと運営されていることを示している」として信頼感を表明した。

欧州では中国市場への期待は依然として高い

ユーロ圏は、域内市場が大きく、圏外の欧州諸国や米国との結びつきも強いため、日本との比較で見ると中国経済の減速や人民元政策の変更に伴う影響を受け難い。圏内の需要は緩やかに回復しているとは言え、緩慢に留まる。隣接するロシアとの関係が悪化、中東・北アフリカ情勢が不安定でもある。中国経済にかつてのような勢いはないとは言え、欧州では市場としての中国への期待は依然高いように感じられる。

国際世論調査でも、西欧の国々は、世界における米国の支配的な地位が続くかという問いに対して、およそ6割が「中国がとって替わる」と回答している。8割近くが「米国の支配が続く」と答えている日本よりも、中国の将来に対して悲観的ではないと言えるだろう(図表7)。

ECB5

中国が掲げる人民元の国際化による新たなビジネス・チャンスへの期待も伺われる。中国は、すでに経済規模で世界第2位、世界貿易では米国と並ぶに比重を占めるようになっているが、人民元の国際通貨としての利用は、資本取引が規制されてきたこともありごく限定的だ(表紙図表参照)。

欧州からは、人民元の国際化への歩みは直線的には進まないにせよ、経済や通商面での地位とのバランスを是正する余地はあると見えるだろう。IMFによる人民元のSDR構成通貨としての採用も欧州諸国が支持したとされる。アジアインフラ投資銀行(AIIB)にも欧州からは英国が逸早く名乗りを上げ、ユーロ参加国でもドイツ、フランス、イタリアなど10カ国が創設メンバーとして参加した。