(写真=PIXTA)
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後継者不足で悩む企業

昨今廃業率が開業率を上回る状況が続いているが、40年ほど前までは開業率が廃業率を上回っていた。高度経済成長期は急速な経済成長を受け、中小企業の多くに従業員の独立を促すような環境があったため、開業する者が増えたことがうかがえる。

ところが、生産年齢人口(15~64歳)、つまり働いている人が1995年をピークに減少を始め、企業を取り巻く外部環境に変化があった。働く人が少なくなることでモノが売れなくなり、失われた20年というデフレ時代に突入してしまった。2005年の中小企業白書では開業率が伸びない理由を経済面から分析しており、生産年齢人口が減少しはじめた頃から独立が割に合わなくなる傾向が判明している。勤めて給与をもらう方が独立して事業で稼ぐよりも儲かるため、経済面から見れば“独立したら損”という結果となり、開業率の減少につながった。

右肩上がりの時代が終わり、時代の波に乗れば事業が発展したというのは遠い昔の話になってしまった。現在の多様化した消費者ニーズに応えたうえ、縮小する市場の中で経営を続けるのは難しく、息子や娘がいても後継者にするにはかわいそうだと考える創業者も多い。特にリーマンショックで資金繰りに苦労した経験から、子供たちには通帳に毎月お金が入る給与生活をさせたいと考える事業者が多いのも事実だ。また高学歴で公務員や医者になったり、大企業に就職したりする子供は、後継者として会社を継ぐ気はさらさらないだろう。

後継者問題の影響で、社長の平均年齢は過去最高の59歳となっている(帝国データバンク「2015年全国社長分析」)。しかも5人に1人が70代以上であるからおどろきだ。社長の交代率はわずか3.8%で、後継者不在の企業が全体の3分の2を占めている。

しかし、後継者育成には最低でも3年はかかるため、社長が高齢ならこれ以上先延ばしができない。事業承継が失敗すれば廃業は待ったなしだ。まずは事業承継をする際に一番困難といわれている後継者の確保について考えなければならない。

後継者選びを後回しにすることで発生するリスク

中小企業における一番のリスクは社長の急死だ。まだまだ働き盛りの社長が交通事故で亡くなり会社が廃業したという例はたくさんある。社長の高齢化で後継者を決めないまま病死してしまってもリスクは同じである。

また儲かっている会社では、経営の問題でよく揉めることがある。原因は親族や社長の兄弟に株を分散して持たせているため。後継者が決まった後、株主となる親族からの口出しで経営が不安定になってしまうことも多々ある。そのうえ、後継者は相続争いにも巻き込まれ、不安定な会社体制ゆえにライバル企業から社員を引き抜かれる恐れもある。また社員間に派閥がある場合は、今までおさえていた社長の「重し」がなくなることから、それぞれ顧客をもって独立するケースも多く見受けられる。

後継者を決定する4ケースの説明

後継者の確保には一般的に4つ方法がある。

1. 同族への事業承継
息子や娘が後継者になってくれればよいが、経営者に向いていないことや本人にその気がない場合も多い。事実、甥や姪が後継者になったり、娘婿が継いだりするケースもある。どんな事情であれ、まずは入社させて経験を積ませることが重要だ。一定期間が経てば部長職や専務など役員に登用し、ナンバー2として従業員に後継者だと周知していく。取引先や銀行にも同行させ、紹介していく。あわせて自分はなるべく口を出さず権限委譲していく心がけが重要だ。問題は社長と同年代の古参社員が多いケースで、社長交代に伴って退職してもらい、若い経営者がのびのび経営できる環境整備が必要になる。反対にお目付役となる番頭をおく必要に迫られる場合もある。

2. 内部昇格
同族への事業承継ができない場合、従業員へ継がせる方法がある。ナンバー2(右腕社員)の見込みのある従業員を見込んだら、まず打診を行う。会社の業績がよいと株式の買い取りの問題が出て、億単位のお金を用意しなければならないこともある。また連帯保証人の問題もある。本人は後継者になる気があっても、家族に「株の買い取りで借金して、連帯保証人になるのなら離婚して」と言われ、断念するケースも多い。

3. 外部からの招聘
同族も従業員もダメなら、外部から後継者を引っ張ってくる方法がある。中小企業で多いのが取引先から招聘するケースだ。ただ、時とともに子会社のような扱いになっていき、嫌気がさした従業員の退職問題がしばしば起きるため、慎重に考える必要がある。

4. M&Aによる売却
最近、増えているのが後継者のいない企業が後継者のいる同業者と一緒になるケース。会社名は屋号のような形で残し、大きな変更がない印象を取引先に与えることが肝要だ。従業員の雇用を維持し、給与や役職もそのままで、なるべくソフトランディングさせる。特に50代前後の従業員は辞めても再就職は難しいと感じており、M&Aでも存続するのなら協力を得やすい。

後継者問題を事前に防ぐための後継者育成制度の重要性

(写真=PIXTA)
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外部からの招聘やM&Aよる事業承継は最終手段で、まずは同族への承継や従業員の内部昇格を考えて長期的な事業承継計画を整備しておくことが大切だ。

事業承継計画をたてるにあたっての注意点を挙げよう。

1. リーダーになる可能性のある人物を特定する
不確実な外部環境のなかで経営できる資質をもっているかが問われる。事業内容によって資質は異なるが、いずれの会社でも経営者として従業員を引っ張っていく資質は極めて重要である。

2. 若いうちから後継者の育成をする制度を作る
後継者育成には最低3年はかかる。どういったマイルストーンで後継者を育成していくのかを計画しなければならない。他の従業員との処遇についても配慮が必要だ。社長が交代した時に賃金体系などの社内体制や制度は、新社長がやり易いように変えていく必要がある。

3. どのような能力が後継者に必要かを洗い出す
製造業なら従業員と話ができる程度の技術知識は必要で、なければ現場やポリテクセンターなどで習得しなければならない。営業なら新規開拓できる能力は必須で、社長自らマーケティングなどを学び試行錯誤しなければならない。後継者教育スケジュールのなかで、しっかり能力を身につけさせることが成功の要となる。

京都の老舗企業では、住居と店が一緒の所が多い。後継者が結婚する時に先代がつける条件は、誰を結婚相手に連れて来てもよいが、結婚したら他に家を建てずにお店にそのまま住むことだ。生まれた子供は小さい時から商売を見て育つことになる。このようにして、店が忙しい所や、従業員に経営者が注意している所などを見せ、子供に次の後継者になるという意識をつけさせる工夫をしている。

また、ある中小企業では社長が病気になった時、大手企業に勤めていた息子が会社を退職して入社した。幸い、病気が持ち直した社長はいろいろなところで相談しながら事業承継プランを作成し、取引先や銀行にも息子を同行して、後継者になるので養成をよろしくと紹介した。こうして、万が一の事態に備え、スムーズに事業承継ができた。

一方、ドイツから特殊な装置を輸入し代理店に販売している会社では、社長が急死したときに息子は前社長から後継者教育を受けていない状態だった。営業職で入社してまだ数年の20代で、装置の技術的内容も分からなかった。輸入元の要請もあり、急遽、有力代理店の社長が兼務で社長に就任し事業をまわしているが、以前からこの社長の息子が技術職で入社しているため、このままでは会社が乗っ取られるのではないかと危惧されている。前社長の息子は経理の勉強もしていないため決算書の数字が読めず、後継者としての準備をしてこなかったことを大いに反省している。

後継者のために 〜事業承継対策の新潮流〜

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これまで事業承継対策として後継者問題について述べてきたが、後継者へ残す資産についても考慮しなくてはならない。企業の資産の多くは、土地・建物・機械・在庫など、本業に関わる資産として存在している。納税をするための資金がなく資金源として資産売却を考えたときに、換金可能な資産のバリエーションが少ないことにより、本業に関わる資産を一部売却せざるを得ないケースがよくある。その結果、これまでの事業継続性が寸断してしまい、後継者に多くの負担を強いてしまう。経営者として、後継者のために流動性が高い売却資産を複数保有することを考えなければならない。 (提供: Vortex online

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