LRT, コンパクトシティ
(写真=宇都宮市公開の動画より)

栃木県宇都宮市と芳賀町を結ぶ次世代型路面電車(LRT)の軌道運送高度化実施計画が、両市町と運営会社の「宇都宮ライトレール」から国土交通省関東運輸局に提出された。宇都宮市は事業化に向けた都市計画決定の手続きを進めており、2016年度中に着工、2020年度の開業を目指している。

首都圏では神奈川県横浜市がLRT導入に向けた調査費を2015年度予算に盛り込んでいるほか、東京都八王子市も多摩ニュータウンと市中心部を結ぶLRTの運行検討に入った。なぜ今、LRTに注目が集まるのか。人口減少時代を迎え、都市のコンパクト化と交流人口拡大を迫られる自治体の苦しい胸の内がそこにうかがえる。

宇都宮で都市計画決定手続きがスタート

宇都宮市と芳賀町のLRT計画はJR宇都宮駅から東の産業団地、芳賀町までを結ぶ約15キロ。2015年11月に官民出資による第3セクター会社・宇都宮ライトレールが設立された。資本金は1億5000万円で、高井徹宇都宮市副市長が社長に就任した。

両市町では年明けから都市計画決定の手続きが始まっている。宇都宮市都市計画課によると、市は既に住民説明会と素案に対する意見受け付けを終え、2月中に公聴会、4月に市都市計画審議会を開く予定。

両市町のLRT計画はもともと、市東部の交通渋滞緩和の目的で発案されたが、人口減少時代を迎え、市をコンパクトシティに再生するための基幹交通とも位置づけている。宇都宮市のまち・ひと・しごと創生総合戦略でも、目玉事業の1つに打ち出した。将来はJR宇都宮駅西側にも路線を延長する方針だ。

総事業費は駅東側だけで約460億円と見積もられている。運営会社の試算では、平日の利用者は1万6300人。開業初年度から黒字を想定し、3年目から年間1億4000万円の収益を見込んでいる。

当面は時速40キロでの運行となるが、国に50〜70キロでの運行を特別に認めてもらえるよう働きかける計画。佐藤栄一宇都宮市長は1月の記者会見で「全国に波及していく公共交通のモデルとして計画を進めていきたい」と意欲を見せた。

全国に先駆けて富山が導入

LRTは「ライト・レール・トランジット」の略で、次世代型路面電車と訳されている。従来の路面電車に比べ、車両の床が低く、高齢者の乗り降りも楽にできる。1両当たりの輸送人員はバスより多く、建設費は鉄道より安い。

米国のポートランドやフランスのストラスブール、イタリアのトリノなど欧米で盛んに導入されている。国内では富山県富山市がコンパクトシティの基幹交通として2006年に開業、注目を集めた。

富山市のLRTは、運行会社の富山ライトレール調べで2014年度利用客が前年度1%増の約153万人。LRT運行が中心市街地ににぎわいを取り戻せたかどうかは意見が分かれるが、高齢者を中心に交通弱者の利用が堅調で、折からの北陸新幹線ブームもあり、観光客誘致にも一役買っている。

富山ライトレールは2020年、市中心部と北部を結ぶ富山港線のJR富山駅乗り入れを計画している。早ければ2016年10月にも工事に入る予定で、実現すればさらに利便性を増しそうだ。

LRTには、人口減少に直面した全国の地方都市が熱い視線を浴びせている。岡山県岡山市はJR吉備線のLRT化をJR西日本と協議している。愛知県名古屋市、京都府京都市、石川県金沢市、静岡県静岡市、群馬県前橋市も調査費を計上するなど検討を進めている。

横浜や八王子、つくばも検討開始

東京一極集中でまだ人口増加を続けている首都圏でも、LRTへの期待は大きい。神奈川県横浜市は中区にある臨海部の山下埠頭再開発に関連してLRT運行を計画、2015年度予算に調査費3000万円を計上した。

山下埠頭では大規模集客施設やコンベンション施設、スポーツ・エンターテイメント施設などを集積させる基本計画が2015年、学識経験者で組織する検討委員会から林文子市長に答申された。

山下埠頭やみなとみらい地区など臨海部とJR横浜駅、中華街、元町地区を観光客が回遊するルートの交通手段としてLRTに白羽の矢を立てたわけだ。野並直文横浜商工会議所副会頭は「横浜の街全体にリゾート、観光機能を持たせるため、LRTに期待したい」と1月末、市内で開かれた公共交通フォーラムで期待を述べた。

単独事業でLRTの導入検討を始めたのが、東京都八王子市だ。市は中心部と多摩ニュータウンを結ぶ新交通システムとして多摩都市モノレールの八王子延伸に期待してきたが、早期実現が難しいとの見方が出てきたため、市が主体的に動ける方策として市単独事業でのLRT導入の検討に入った。

本格的な調査は2016年度からになる見通しだが、モノレール延伸のために確保した用地の活用、より経費が安くて済む連節バスによる高速運行システムについても、検討対象としていく考えだという。

茨城県つくば市は南北に細長い形の市内を結ぶ基幹交通としてLRTの導入検討を進めている。既に概算事業費や導入効果の検討を済ませ、需要の把握に向けたアンケート調査も実施している。今後も引き続き、調査研究を進め、2018年ごろまでに事業化を見極める方向だ。

否応なく迫られるコンパクトシティ

こうしたLRT検討が相次ぐ背景には、人口減少と高齢化社会の進行がある。首都圏でも2020年前後には人口減少に入ると予測され、団塊の世代が後期高齢者となる2025年から4人に1人が75歳以上という超高齢化社会に突入する。

郊外へ無秩序に広がった市街地のままでは、十分な住民サービスが提供できず、否応なくコンパクトシティ化を迫られているわけだ。さらに公共交通が整備されなければ、郊外にあるニュータウンや住宅団地がゴーストタウンになりかねない。このため、バスより輸送力が高く、比較的建設費が安いLRTに注目が集まっている。

観光面でもLRTは目玉になる。街中をのんびり走るLRTは、ただの移動手段に過ぎない地下鉄などと違い、観光客なら1度、乗ってみたいと思うだろう。富山市や宇都宮市に続く自治体がどれだけあるかは未知数だが、新時代の基幹交通となる大きな可能性を秘めている。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。