ふるさと納税,過疎化,地方
京都府宮津市がふるさと納税を呼びかけるページ(写真=HPより)

人口減少と少子高齢化の進展で危機的な状況に陥っている地方自治体の移住者獲得競争が過熱している。市有地を1平方メートル当たり500円の超低価格で分譲する自治体が登場したほか、ふるさと納税の返礼品として宅地をプレゼントしようとして総務省からストップをかけられたところも。

一定期間の居住と引き換えにした土地、建物の無償提供や、空き家リフォーム費用の自治体負担はもはや当たり前。地域を支える「金の卵」の受け入れにサービス合戦は、ますますエスカレートしそうだ。

分譲地1平方メートルをワンコインで

「1平方メートルワンコインから」を宣伝文句に、市有地を1平方メートル当たり500円の超低価格で分譲を始めたのは、宮崎県南西部にあるえびの市。熊本、鹿児島両県との境に位置し、霧島連峰を見渡す人口2万人足らずの山あいの街だ。

市財産管理課によると、売り出しているのは麓地区に造成された川原分譲地。市の教職員住宅跡地を広さ271~584平方メートルの計10区画に再整備し、2015年12月から移住者向けに売り出しを始めた。このうち、5区画は45歳以下の移住者を優先する「若者枠」としている。

価格は広さ354平方メートルを超すと、割高になるシステムを採用している。最小区画は広さ271平方メートルで13万円と、実質1平方メートル当たり500円を下回る。最大区画の広さ584平方メートルでも、91万円にしかならない。地元不動産会社の評価額は1坪(3.3平方メートル)当たり2~3万円。超破格の物件となっている。

移住の際には市独自の支援策が適用される。住宅建設には市内業者に任せれば50万円、市外業者だと30万円が補助される。ほかに、移住加算金30万円、中学生までの子供1人につき10万円が支給される子育て加算金(上限2人)がある。中学校卒業までは入院費、調剤薬局費も無料になる。

2月17日までに若者枠1件を含む計3件の申し込みがあった。問い合わせは20件以上に上っている。問い合わせてきた人は九州内だけでなく、東京都や千葉県在住者もいる。2月末まで募集する予定で、同じ分譲地に申し込みが重なった場合は、市が希望者と話し合い、調整する。

背景に潜む急速な人口減少

市が破格値で宅地分譲を始めた背景にあるのは、人口減少と少子高齢化が深刻さを増していることだ。市は1970年の発足時、約2万9000人の人口を抱えていたが、徐々に人口が減少し、2015年2月に2万人の大台を割り込んだ。

平均年齢は2010年国勢調査で51.6歳。65歳以上の高齢者が全人口の占める割合は34.7%に達し、全国平均の23.0%を大きく上回っている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年に人口1万3500人に減少すると試算されている。

市内は農業や畜産業が盛んな土地で、温泉も九州で知られている。しかし、人口減少と少子高齢化に歯止めをかけることができず、えびの市の名前を全国に知ってもらおうと破格値で土地分譲することにした。市財産管理課は「人口減少と少子高齢化を止めなくては、どうにもならない。若い人に市へ来てもらい、街に活力を取り戻したい」と狙いを語る。

ふるさと納税のお礼に土地提供を計画

ふるさと納税の返礼品に土地提供を打ち出したのは、日本三景の天橋立で知られる京都府宮津市だ。市はふるさと納税の返礼品に地元で採れた酒や米、魚の一夜干しなどを提供していたが、2014年9月にスーパープレミアムコースとして土地提供を打ち出した。

1000万円以上の寄付をしてくれた人に、宮津湾を見渡すつつじケ丘団地の分譲地200平方メートルを提供しようという試み。土地の時価は750万円相当で、ふるさと納税の呼び込みとともに移住者の受け入れを目指していた。

市のWebサイトで広報したところ、全国から大きな反響を集めた。しかし、総務省が納税者に特別の利益が及ぶ場合は地方税法で税控除の対象外となっているとしてストップをかけ、受付開始の直前で取りやめになった。

地方へ移る子育て世代が「金の卵」

移住・交流推進機構(東京)のまとめでは、全国の自治体の多くが移住者向けの優遇措置を競い合っている。宮城県七ケ宿町は40歳未満で中学生以下の子供がいる家庭が20年間定住すれば、土地、建物を無償譲渡するとしている。

島根県雲南市は市有宅地を25年間有償貸付し、貸与期間が満了すれば無償譲渡する方針を打ち出した。岡山県鏡野市は定住促進住宅に20年間暮らすと、無料で譲渡する。

山形県遊佐町は空き家登録物件を町が最大350万円かけてリフォームし、移住者に提供する方針だ。宮崎県日南市は移住者が空き家を購入すると、市が最大180万円の補助金を交付している。まさにあの手この手の移住者誘致合戦が繰り広げられているわけだ。

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など経済の国際化が一層進む中、地方の基幹産業である農林水産業を取り巻く環境は厳しさを増している。生産拠点の海外移転で工場誘致も難しい時代となった。

人口減少を食い止める一発逆転の方法が見当たらない中、地方の自治体は移住者を招き入れようと懸命になっている。ただ、日本海に浮かぶ島根県海士町のような人口2400人の2割が移住者という成功例は、ごくわずかしかない。

地方から都会へ向かう若者は高度経済成長期、「金の卵」と呼ばれた。今や都会から地方へ移住する子育て世代が、「金の卵」になっている。厳しい移住者獲得競争を勝ち抜くため、自治体の模索はさらに続きそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。