「キャッシュ イズ キング」直訳すると「現金は王様」。様々な解釈ができるものの、いざというときは現金が最も強い、という意味で使われることが多い。今回は、昨今、タンス預金が急増している背景を踏まえて、改めて「キャッシュ イズ キング」の言葉の意味を考察したい。

(写真=PIXTA)
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「キャッシュ イズ キング」の2つの意味

1990年前後のバブル崩壊から日本は長いデフレに苦しめられ、株式市場や地価は低迷してきた。そんな時代には、株や不動産などリスク資産よりも現金が安心で王様だと考える気持ちも理解できる。長く続く不況によって、それらのリスク資産が引き続き値下がりしてしまう懸念があったからだ。

また、企業経営を行っていくには現金が必要になる。たとえ業績が黒字であっても企業は倒産することもある。現金が枯渇した段階で経営を続けていくことはできなくなるからだ。現金が少ないことによって、経営戦略の選択肢が制限される可能性もある。現金が少なければ一つの戦略ミスが致命傷になることも考えられるのだ。しかし、現金が潤沢にあれば、選べる選択肢も広がり、少しばかりのミスも許容することができる。

もし、リーマンショックのような世界を震撼させるような出来事が起こったときに、ある程度の現金を保有しているとどうなるだろう。大暴落した株や不動産を底値で買えるかもしれない。さらに注目すべきは、購入の選択肢が増えることだ。キャッシュで購入することはもちろん、手元に現金があることを信用力として、相対的に有利な条件でローン購入もできるかもしれない。特に不況時は、金融機関も貸付審査が厳しくなる傾向があるので、手元に一定以上のキャッシュがない人は、ローン購入を断られる可能性もある。そうなると、手元に現金がない人は、絶好の買い場を指をくわえて見ているしかない。

このような観点から考えて、「キャッシュ イズ キング」という言葉には「安全だから現金で持っておくのが一番」という「守りのニュアンスがある一方、「攻め」という意味も含まれている。現金は、盾としての役割も備えているが、ときとして武器になるという視点も持っておきたい。

タンス預金が急増している理由

ところで、私たちが住む日本では、100年に1度と言われた金融危機が去ったにも関わらず、タンス預金が急増している。2017年3月末に第一生命経済研究所が発表した調査によると2012年1月のタンス預金の残高が約30兆円に対して、2017年2月末の残高は約43.2兆円だ。

いわゆるアベノミクスが始動したのが2012年12月であり、ここ数年間は景気回復の兆しが見え始めていると言える。しかし、この5年以上、タンス預金は増え続けているのが現状だ。

では、なぜタンス預金が増え続けているのだろうか。いくつかの要因が重なっていると考えられる。一つの理由としてマイナンバー制度により、国に資産を把握されることを恐れた富裕層の行動が関係しているのではないかと予想される。

また、増加する財政赤字を一気に解消する方法として「政府が預金封鎖に踏み切るかもしれない」という一抹の不安もあるかもしれない。そして2016年1月には、日銀がマイナス金利政策を導入した。現在、個人の預金金利はマイナスになっていないが、近い将来そうなるかもしれないという悲観論も、タンス預金急増を後押ししていると考えられる。

攻めのための貯蓄を

あくまで推測にすぎないものの、タンス預金が急増している理由は、「キャッシュ イズ キング」でいう「守り」にフォーカスした行動と言えよう。つまり、様々な理由から、銀行に現金を預けるよりも手元で管理した方が良いと考える人が増えているということだ。

しかし、ただ貯めるだけでは「守り」に終始しているだけである。富を築くには、王様である現金をタイミングよく使って (場合によっては信用力として) 「攻める」ことが大切だ。経済がインフレ下において現金は保有しているだけでは価値が目減りしていく。銀行預金であれ、タンス預金であれ、「キャッシュ イズ キング」の2つの意味を理解し、守りと攻めをバランスよく行動できるかどうかが大切になってくる。

(提供: 大和ネクスト銀行

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