近年、金融市場や資産運用業界において「テーパリング」という言葉をよく聞くようになった。そこで、今回はテーパリングの概要を押さえた上で、テーパリングが米ドル相場にもたらす影響について考えてみよう。
テーパリングとは何か
テーパリングとは、直訳すると「先細り」や「次第に先が細くなっていくこと」で、中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略のひとつだ。具体的には、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくことを指す。
量的緩和策とは、中央銀行が景気や物価を下支えするために、マネタリーベースなどの「量」を操作目標として、市場に大量の資金を供給する金融緩和政策のこと。中央銀行が金融機関から国債などを買い取って、金融機関に融資や資産購入を促し、経済の活性化を図るものだ。
量的緩和策は、基本的に不景気から脱するための一時的な政策なので、景気が良くなれば続ける必要はない。しかし、大手術を受けた人がすぐに日常生活に戻れないように、量的緩和策を急に止めてしまうと、それに慣れていた金融市場にさまざまな混乱が生じるおそれがある。そのため、リハビリ期間のような「資産買い入れ額を徐々に減らしていく期間」が必要なのだ。
したがって、テーパリングが始まっても急に量的緩和の金額がゼロになるわけではない。一般的にはテーパリングを段階的に進めて、量的緩和策を停止 (市場に供給する資金をゼロにする) した後、利上げを行うというステップを踏むことが多い。
テーパリングが起こると米ドル相場はどうなるのか
現在世界各国で量的緩和策が実施されているが、先進主要国の中でテーパリングの議論が進んでいるのが米国だ。米国でテーパリングが起こると、米ドル相場はどのように反応するのだろうか。
未来のことなので断言はできないが、一般論としてはテーパリング後に行われるであろう利上げを連想させるため、米ドルの金利が上昇しやすい。そのとき、日本円の金利が変わらなければ、米ドルと日本円の金利差は拡大することになる。為替相場は通貨間の金利差の影響を受けやすく、金利が高い通貨は買われやすくなる。
つまり、米国でテーパリングが起こると、米ドル高円安に振れやすくなるのだ。
前回のテーパリング局面はどうだった ?
実は、過去に米国でテーパリングが行われたことがある。2012年、FRBは毎月400億ドルの不動産担保証券 (MBS) と450億ドルの長期国債を買う「量的緩和第3弾」と呼ばれる政策を開始した。その後景気が回復したので、2014年1月から2014年10月末までの9ヶ月にわたってテーパリングを実施したのだ。
このとき、米ドル円の為替相場がどのように動いたか確認してみよう。2014年1月始値は105.28円。その後101円を割り込む時期があったが、2014年10月終値は112.30円と約7円も円安に振れている。2014年12月終値は119.68円まで円安が進んだ。
これだけを見ると、テーパリングによって米ドルの利上げが連想され、円安が進んだように見えるかもしれない。しかし2014年末の円安では、2014年10月31日に日銀が発表した金融緩和拡大 (いわゆる「ハロウィン緩和」) の影響を加味する必要がある。米国が金融引き締め (通貨は買われやすい) に向かう一方、日本は金融緩和 (通貨は売られやすい) の強化に向かうという正反対の動きが、急激な円安を招いたと考えられる。
それでは、「ドルインデックス (ドル指数) 」はどうなっていたのだろうか。ドルインデックス (ドル指数) とは、ユーロやポンド、円など複数の通貨に対する米ドルの為替レートを指数化し、米ドルの相対的な価値を表すものだ。2014年1月から2014年10月までの米ドル指数先物の推移を見てみよう。数字が大きいほど、米ドルの価値が高いことを表している。
2014年1月は80を割っていたが、テーパリング期間と連動するように指数が上昇し、2014年10月には87を超えた。その傾向はテーパリング後も続き、2015年3月には100を超える場面もあった。ドルインデックスを見ると、日本円に対してだけではなく、他の通貨に対してもドル高が進行していたことがわかる。
米ドル購入も選択肢のひとつ
テーパリングは、「金融引き締めがスタートする合図」ともいえる政策だ。テーパリングが行われると、為替市場は利上げが近いことを予測し、その通貨が買われることが多い。
米国がテーパリングに向かい、日本が超金融緩和を続けるのであれば、テーパリングの動向を横目に見ながら、日本円を米ドルに替えて為替差益を狙うのもよいだろう。テーパリングを理解して、米ドル円相場の波に乗れるようになっていただきたい。
(提供:大和ネクスト銀行)
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