世界の外国為替市場では、「対米ドル」の取引が圧倒的なシェアを占める。米ドルのほかにユーロ、日本円、英ポンドが主要通貨として盛んに取引されているが、豪ドル (オーストラリアドル) も人気通貨の一つだ。では、オーストラリアとはいったいどのような国なのだろうか。本記事では、「豪ドル」にスポットをあて、オーストラリアの経済や外交、金利の動向などについて紹介する。
「資源国通貨」として人気の豪ドル

オーストラリアの通貨「豪ドル」は、日本をはじめ世界各国で広く取引されている人気通貨の一つだ。主要通貨の中でも比較的高い取引シェアを持ち、存在感を示している。石炭や鉄鉱石などの資源が豊富で、これらの輸出が大きな割合を占めていることから、「資源国通貨」としても知られている。日本は、資源の乏しい国であることは周知の事実だが、日本人から見て資源の豊富さが豪ドル人気の理由の一つになっているのかもしれない。
また、「国土の広さ」もオーストラリアの魅力の一つだ。オーストラリアの面積は、日本の約20倍。アラスカを除く米国とほぼ同じ大きさで、世界で6番目の広大な国土を有している。人口は約2,720万人 (2024年6月時点) 。国家元首を英国王 (現在はチャールズ三世) が兼務していることは、日本ではあまり知られていないかもしれない。
オーストラリア経済の現状
オーストラリアの経済は、1992年から新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済が大きく落ち込むまでの28年間、成長を続けてきた。これは、先進国のなかで最も長い記録だ。コロナショックの影響を受けた年には一時的に成長が鈍化したものの、その後は再びプラス成長に転じ、以降も年ごとの違いはあるものの、マイナス成長には至っていない。
「オーストラリア=資源国」というイメージがあるだけに、同国の経済成長を支えるのは“資源”と思われがちだ。もちろん、石炭や鉄鉱石、リチウムなど豊富な資源の輸出が同国の武器であることはたしかだが、オーストラリアのGDPに占める鉱業の割合は、約14% (2022年度) に過ぎない。
実は、オーストラリアの経済成長を支えているのは、人口の増加による個人消費の拡大である。オーストラリアも日本をはじめとしたほかの先進国同様、出生率の低下に悩まされているが、人口は移民の増加によって増え続けている。オーストラリアは、移民を積極的に受け入れる政策を採っており、年々「外国生まれの人口」が増加し、2023年時点でその割合は約30%。移民によってオーストラリアの人口は今後も増えることが見込まれており、個人消費の増加を背景とした経済成長が期待できる。
ちなみに、IMF (国際通貨基金) が2025年1月に発表した「世界経済見通し」では、オーストラリアのGDP成長率は2025年が約2.1%、2026年が約2.2%となっている。
オーストラリア経済が抱える問題点
一方で、現在のオーストラリアは次のような問題点を抱えている。
中国との摩擦
まずは、オーストラリア最大の貿易国である中国との摩擦だ。1960年代まで、オーストラリア最大の貿易相手国は英国だった。しかし英国が地理的に遠いこともあり、1960年代後半には日本が最大の貿易相手国として台頭。しばらくはその状況が続いたが、2009年、急速な工業化を遂げた中国が最大の貿易相手国に浮上した。中国とは、2013年に戦略的パートナーシップを締結し、2015年にFTA (自由貿易協定) を締結するなど順調に関係を深めていく。
ただ、そこで豪中関係の深化に“待った”がかかる。2017年ごろから、中国による内政干渉問題が浮上。また、新型コロナウイルスの発生源問題 (オーストラリアが中国政府に対して新型コロナウイルスの発生源の調査を求め、それに対して中国政府が反発し牛肉や石炭などさまざまな分野で輸入制限を課したもの) などによって、両国の関係は一時的に悪化する。しかし、その後は両国政府の交渉により貿易制限は緩和され、2024年12月に中国がオーストラリアの製品に課していた貿易制裁は全面解除された。
もっとも、2025年2月には南シナ海上で、監視のため飛行していたオーストラリア空軍の哨戒機が、中国軍機に対して照明弾を投下するなど、両国の政治的な摩擦が解消されたわけではない。貿易面では一旦歩み寄りを見せた両国だが、今後の状況によっては、再び貿易摩擦が過熱する可能性はある。
物価の高騰 (インフレ)
もう一つの問題点は、物価の高騰 (インフレ) だ。オーストラリアの物価は他国同様、コロナショックやロシアとウクライナの戦争によるエネルギー価格の高騰などを背景に上がり続け、2022年第4四半期 (10~12月) には消費者物価指数が前年同期比7.8%まで上昇。インフレを抑えるため、RBA (オーストラリア準備銀行:中央銀行に相当) が政策金利の引き上げを実施したことで物価上昇はストップした。
しかし、インフレ圧力が予想より早く収束したため、2025年2月、RBAは4年3ヵ月ぶりに今度は利下げを行った。ただ、RBAのブロック総裁は、利下げを決めた会議後の記者会見で「今後も市場が示唆するような追加利下げが実施されるという意味ではない」と、追加利下げを予想する市場に釘を刺している。依然としてインフレの先行きには不透明感が残っており、状況次第では再び金融引き締めに転じる可能性もある。
分散投資先の候補として魅力的な豪ドル
もともと、オーストラリアは先進国のなかでも金利が高いことで知られており、その高金利が豪ドルの魅力の一つとなっている。豊富な資源と人口増加を背景とした経済成長が期待できることに加え、紛争が絶えない中東から地理的に遠く離れているため、地政学的リスクが比較的小さいのもポイントだ。一方で、実際はGDPに占める鉱業の割合は高くないにも関わらず、その資源の豊富さから「資源国通貨」とのイメージが強いため、豪ドルは資源の価格や需要に影響を受けやすい。そのため、為替変動リスクがやや大きくなっているのも豪ドルの特徴の一つだ。
中国との関係悪化という懸念は残るが、米国のトランプ大統領が鉄鋼やアルミニウムの関税引き上げの対象からオーストラリアを除外する考えを示すなど、米国との良好な関係は今後の豪ドルの強みになるかもしれない。やや価格変動リスクは高いものの、高金利と豊富な資源、人口増加に支えられた経済成長は、投資先として魅力的だ。
2025年2月時点で「豪ドル / 円」相場は今後の追加利下げを織り込む形で下落傾向だが、これは今後の相場上昇に向けた投資のチャンスという捉え方もできる。通貨としての魅力を考え、外貨預金では米ドル以外の分散投資先の候補にしてみてはいかがだろうか。
(提供:大和ネクスト銀行)
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