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(写真=PIXTA)

訪日外国人の急増で都心の宿泊施設が不足しています。こうした問題を解決するために、東京都の大田区は、「民泊」を認める条例を2015年12月に制定しました。2016年2月12日には全国で初めて区内の2物件を、「民泊」可能な宿泊施設として認定しました。「国家戦略特区」の制度を利用した旅館業法の特例です。

空いている部屋を提供するAirbnb などの「民泊」サービスが、ここ数年日本国内でも急速に広がっています。大田区の事例は、自治体が認定した日本初の「特区民泊施設」「認定民泊施設」になります。

大田区の「特区民泊条例」とは

民泊を認めるといっても、もちろん、空き部屋を無条件で外国人に貸せるわけではありません。大田区ではいくつもの条件を定めており、それに従う必要があります。2016年1月26日に、条例に基づいた規則とガイドラインが示され、現在はインターネットで公表されています。この条例のポイントを、簡潔にご説明しましょう。

● 滞在期間・居室
・ 使用期間は6泊7日以上
・ 1居室の床面積は25平方メートル以上
(寝室のほか、台所、浴室、便所及び洗面所ならびに専用部分の玄関、廊下を含めて壁芯を基準に計算した面積。なお分譲マンションなどの広告は壁芯基準となっています)
・ 出入り口、窓が施錠できること
・ 居室同士、居室と廊下は壁で区画されていること
・ 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、冷暖房設備があること
・ 台所は上水道につながり、調理できること
・ 浴室は上水道につながり、浴槽があること
・ トイレは水洗(上水道接続)、洋式であること
・ 台所とは別の、上水道につながる洗面設備があること
・ 居室には寝具、テーブル、椅子、収納家具、電子レンジ、コンロなど調理のために必要な設備、ぞうきん、ゴミ箱、掃除機またはほうき、チリ取りなど清掃のために必要な器具のあること。

いずれも常識的な住宅仕様であればクリアできる条件ですが、問題になりそうなのは①の「使用期間が6泊7日以上」でしょう。

清潔な施設の提供も条件に

また条例では、「施設の使用の開始時に、次の措置を講じることができる体制が整えられること」として、次の4点を挙げています。

● 清潔な居室の提供
・ 施設設備を清掃し、必要に応じて補修、消毒を行い、清潔で衛生上、支障がないようにすること
・ 廃棄物がないこと
・ 洗浄した清潔な調理器具、コップなどを用意すること
・ 洗濯した清潔な敷布、シーツ、布団カバー、枕カバーなどを用意すること

部屋の掃除をし、ゴミを捨て、食器を洗い、洗濯した清潔な寝具でお客さまをお迎えするという、ホテルや旅館の客室と同じように環境を整えるということです。普通にお客様を家に泊める時の対応ができれば、おそらく問題はないはずです。

施設の使用方法を外国語で案内

● 外国人旅客の滞在に必要な役務
・ 施設の使用方法(ゴミの集積場所、出す日時、騒音を出さないこと、火災などの緊急時の通報先、初期対応の方法)を、使用開始時に外国語で説明できるようになっていること
・ 適切なゴミ出しのために必要な措置(事業系ゴミとして処理できる体制)が取られていること
・ 災害や急病、事故などの緊急時に、外国語による避難や救急医療に関する情報を電話や、現場で迅速に提供できる体制が取られていること
・ 滞在者の使い始めと終わりに、対面やテレビ電話で、パスポートなど身分認証書類を確認できること

英語で上記のことを説明できる能力があれば、十分に対応可能でしょう。

近隣への事前周知が必要

● 近隣住民への周知
・ マンションであればマンション内の使用者全員に、一戸建てであれば隣家の建物使用者に、ポスティングなどの方法で「民泊対象の所在地」「住民からの苦情窓口の連絡先」「ゴミの処理方法」「火災等の緊急事態の場合の対応方法」などを周知すること
・ 問い合わせや意見などがあれば、その経緯について報告書に記載すること

もしかすると、これらが一番大変かもしれません。「会社組織のような体制を敷かないとできないかも」と音を上げる人が出てくる可能性があります。

大田区が民泊の早期導入に踏み切った背景

結局、「民泊」認定第1号は、インターネット宿泊サービスサイトを運営する「とまれる」(東京都千代田区)が申請した2物件となりました。JR蒲田駅から徒歩14分の平屋(定員4人、約55平方メートル)と、蒲田駅から3分のマンション1室(定員2人、約25平方メートル)です。「とまれる」は、すでに農山漁村の「体験民宿」も行っているシェアリング宿泊の斡旋会社です。

大田区がいち早く「民泊」の導入に踏み切った背景には、羽田空港の地元である大田区への訪日外国人の急増がありました。2015年には区内のホテル稼働率が90%を超え(前年の16%増)、ほぼ満員状態でした。また、東京五輪が近づくにつれて、羽田空港や都心、横浜、鎌倉などの観光地へのアクセスが便利な大田区では、宿泊施設不足がさらに深刻になるとみており、今後、他の業者からの申請が続くと判断しています。

行政罰はなく、モラルが問題に

大田区の特区民泊条例では、「事業者が立ち入り調査の際に、事業の実施状況についての報告を怠ったり、ウソの報告をしたり、あるいは、近隣からの苦情への対応が適切になされなかったりした時に、認定が取り消されることがある」としています。その一方で、この条例には罰則規定がありません。

1999年の地方分権一括法で、地方自治体が自ら制定する条例において行政上の義務違反があれば、刑罰ではない行政罰として「過料」を課すことができるようになりました。

「歩きタバコの禁止」や「空き家の放置禁止」などを求める条例が、今回の「民泊」条例のやり方に似ているかもしれません。自治体がある行政目標を定めた時に、こういった過料を課すことを条例に盛り込むことがあります。また盛り込んでも、適用しない場合もあります。

今回の大田区条例では、民泊をしようとする個人や事業者に対して、申請することを求めるのが主な目的で、認定された者が条例に違反したり、申請せずに無届けで民泊事業を行ったりした場合の罰則は盛り込まれていないのです。そういう意味では、民泊事業に取り組む人たちの意欲やモラル、遵法精神に委ねられていると言えそうです。

まとめ

東京都大田区が条例を定め、「認定民泊」については住宅を貸せることになりました。大田区は今後、「民泊」物件が増えると考えているようですが、果たしてその結果はどうなるでしょうか。

なお、空き部屋であれば何でも無条件に「民泊」が認められるわけではありません。宿泊設備としては、普通の住宅、マンションであれば問題ないと思いますが、「6泊7日以上の利用でないと認めない」、「事前の近隣への説明が必要」と言った点がハードルになってくるとみられます。

また、この条例には認定業者の条例違反や無届出での民泊営業への行政罰(過料)の規定がありません。運用する当事者の問題意識に委ねられている面が大きく、条例が本当に有効的に機能するかどうかは、今後も注目する必要がありそうです。(提供: Houstock Online

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