豪州の企業家クレイグ・ライト氏が、過去数年にわたり謎を呼んでいた「ビットコインの発明者、サトシ・ナカモトの正体は自分である」とメディアを通して名乗りをあげ、大きな波紋を呼んでいる。

しかし外部の専門家からは「技術的な裏付け」の信ぴょう性に疑問を唱える声があがっており、真偽をめぐる議論が繰り広げられている。

「ライト氏は古い署名を偽造しているだけ」

米GQ誌、英エコノミスト誌、英国放送協会(BBC)の取材に応じたライト氏は、世間の「サトシ・ナカモト探し」に終止符を打つために、自らの正体を明かす決心をしたと語った。昨年12月には流出書類からライト氏の存在が英メディアに取り上げられ、その直後にはオーストラリア税務局の家宅捜索を受けるなど、精神的な疲労と歯がゆさが身分の公表に駆り立てたという。

取材ではビットコインの開発初期に作成された暗号キーを利用して署名してみせるなど、ライト氏自ら真の開発者であることを証明するデモストレーションが行われた。ロンドンで行われた検証セッションに立ち会ったビットコイン財団のジョン・マトニス事務局長も、ライト氏の証言は「本物だ」と確信に満ちている。

しかしビットコイン産業に直接関わっていない外部の専門家を納得させるには、ライト氏の証明は不十分なようだ。

米サイバーセキュリティー会社、White Opsで主任研究員を務めるダン・カミスキー氏は「ライト氏は2014年にデータ漏えいの可能性が報じられた暗号化ライブラリー、OpenSSLのバグを利用して、2009年に記録された本物のサトシ・ナカモトの署名を偽造し、新しい署名に見せかけているだけだ」とTwitterに投稿。

カリフォルニア大学バークレー校の計算機科学者、ニコラス・ウェーバー氏やサイバーセキュリティー情報サイト、Hacker Newsなども「ほぼ確実にデッチあげだ」と同様の見解を示している。

これに対し、ビットコインの中心開発者、ギャビン・アンダーセン氏は「署名が漏えいした形跡は認められない」と、ライト氏の証言を支持するなど、見解は真っ二つに分断されている。

ライト氏の証言に不利な要素はほかにもある。サトシ・ナカモトが所有していると推測されている100万BTC(400万ドル相当/約4億2248万円)について、ライト氏は「トラスト(企業合体)が管理しているので動かせない」と物質的証拠の提示を拒否している。

さらには開発の協力者として名前があげられた著名暗号研究者、ハル・フィニー氏は2014年に他界しているため、真偽のほどを確かめる術がない。さらなる証拠の提示も「何でもかんでもハイ、ハイと公表するわけにはいかない」と煙に巻くような発言をしている。

支援と批判が渦巻く中、ライト氏は「私はこの後社会から姿を消す。メディアの注目を浴びたくて身分を明かしたわけではない」と売名行為であることをキッパリと否定。この言葉が本当であれば、真偽は結局謎のまま闇に葬られることになるかもしれない。( FinTech online編集部

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