共感コミュニティを育む意義

◆共感コミュニティが地域社会によい効果を与える理由

以上のような共感コミュニティが増えていくことは、次の理由から地域社会によい効果をもたらすと考える。

(1)分かち合いの関係が心地よい地域社会をもたらす

共感コミュニティの参加者は、人とのつながりに価値を見出し、外に開かれた活動によって、同様の人を引き付ける力を持っている。

共感を基につながることは、自分の好きなことが人のためにもなる、人のためにすることが自分のためにもなるという、分かち合いの関係をつくることと考えられる。これがなくても普通に生活できるが、あれば心地よいものだ。共感コミュニティが増えることは、分かち合いの関係を生みだし、暮らしていて心地よい地域社会をもたらすと言えよう。

(2)つぶやきを受け止め合う関係が、地域課題を共有しやすい環境を育む

共感コミュニティには、誰かのつぶやきを受け止め合う関係がある。こんなことができたらいいなという一人のつぶやきを周りの人が受け止め、どうしたらいいかと一緒に語り合い、プロジェクト化して実行する。

こんなこととは、個人的な興味・関心事で、行政が期待する課題解決型の活動ではない。しかし、課題解決型の活動も、日頃から個人的な興味・関心事で発せられるつぶやきを受け止め合う関係がなければ始まることは難しい。

なぜなら、課題解決型の活動が始まるためには、地域課題を住民同士で共有することが必要であり、地域課題を共有するためには、共有しやすい関係がないと難しいからだ。

こうしたつぶやきを受け止め合う関係は今、地域社会に最も求められていることであり、それがあることは地域社会を運営していく上で重要なことではないだろうか。

つぶやきを受け止め合う関係を備えた共感コミュニティが地域社会に増えることは、地域課題を共有しやすい環境を育むことにつながるのである。

(3)地域への眼差しが地域の価値を高めることに貢献する

共感コミュニティの参加者は、自分が暮らす地域に関心がある人が多い。地域の魅力を掘り下げる視点、それを形にするスキルを持った人が、地域に眼を向け、地域の素材を抽出し、それを編集することで地域の魅力を普段と違った角度から浮かび上がらせている。

地域の素材を使って楽しみ、それを受け止める人とも楽しみを共有し、地域への共感の輪を広げようとしている。

共感コミュニティが増えることは、このような地域への眼差しによって、地域の素材を活用し、地域の価値を高めることに大きく貢献するだろう。

◆地域社会で共感コミュニティを育むことへの期待

筆者は、地域社会がより一層共感コミュニティに眼を向けるとともに、共感によるつながりが生まれやすい状況を意識的に用意すべきではないかと考えている。例えば、共感コミュニティの成立に欠かせない3つの要素を導入することである。

同時に行政も、共感コミュニティへのかかわり方や、共感コミュニティを育むための公共施設のあり方などについて検討していく必要があるだろう。

おわりに

筆者は、これまで課題解決型のまちづくり活動に、関係者としてあるいは専門家として関わる中で、その限界感や閉塞感を感じることが多かった。しかし、共感コミュニティにはそうした状況を変えていく可能性を感じている。

今後さらに共感コミュニティを育む具体方策まで掘り下げていきたい。

(*1)ものづくりコミュニティの工房。会員が工房を利用する際は工房長となって工房を取り仕切る工房長制が特徴的。
(*2)自宅を日曜日だけ図書室として開く取り組み。自分の本を預ける際に「本籍証」にメッセージ記し、返却する際は「旅の記録」に感想などを記す、「本が旅する」と称する貸し借りの仕組みが特徴的。
(*3)商店街のテナントへ、外に開かれた4室のアトリエを設け、入居者の活動によって、日中商店街に訪れる人を増やそうとする活動。人と積極的に関わる中で作品作りを行おうとする人が入居している。
(*4)商店街にあるコミュニティスペース。ここで行われる様々なイベントに共感した人がつながり、新たな共感コミュニティを再生産している。以上、各事例の詳細は基礎研レポート2016.03.31「 まちづくりレポート|多摩に広がる共感コミュニティ 」 参照。

塩澤誠一郎(しおざわ せいいちろう)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 准主任研究員

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