中華圏では為替レートが訪日旅行の重要な決定要因

日本への旅行需要は、自国の所得や為替、物価水準、震災といった要因に影響されるものと考えられる。そこで被説明変数を訪日旅客数とし、実質GDPや対円為替レート、相対価格、震災の影響などの説明変数を用いて、以下のような重回帰分析を行うこととする。

【被説明変数】
ARR:訪日旅客数

【説明変数】
GDP:対象国の実質GDP
EXR(-1):1四半期前の対象国通貨の対円為替レート
ERP:相対価格(日本の消費者物価指数÷対象国の消費者物価指数)
DME:東日本大震災のダミー変数(2011年4-6月期=1、それ以外=0)
C:定数

【対象国】
中国、香港、台湾、韓国、米国、ドイツ、フランス、英国

【推計期間】
2003年1-3月期~2016年1-3月期

上記の推計式では実質GDPが上昇すると、国民の可処分所得が増加するため、訪日旅行がしやすくなる。このため、実質GDPの符号条件は正であると考えられる。また、対円為替レートについても、円安は訪日旅行需要を増加させるため、符号条件は正となる。

一方、相対価格は日本の消費者物価指数を対象国の消費者物価指数で除したものである。相対価格の上昇は日本への旅行費用の増加をもたらし、結果として訪日旅行需要の減少につながるため、符号条件は負であると考えられる。このほか、訪日旅客数が減少する要因として、東日本大震災のダミー変数も考慮した。

こうした前提条件のもとで分析を行った結果、英国では実質GDPの弾性値の有意性が低くなったほか、香港を除く7カ国では予想に反して相対価格の弾性値がマイナスとなるなど統一的な結果が得られなかった。そこで、これらの7カ国を対象に相対価格を説明変数から除外した推計式の導出も試みた。

この結果、いずれの国でも実質GDPが上昇すると、訪日旅客数が増加することが明らかとなった(図表3)。なかでも韓国や米国、台湾では実質GDPの弾性値が他国に比べ大きく、自国の経済状況が訪日旅客数の重要な決定要因となっていることが分かる。一方、中国では弾性値が0.86と他のアジア諸国と異なり、自国の経済状況が訪日旅客数に必ずしも大きな影響を与えていないことを示す結果となった。

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対円為替レートについても全ての国で有意な結果が得られ、とりわけ中華圏では弾性値の大きさが目立つ。すなわち、円安によって日本での購買力が高まると、中華圏からの訪日旅客数が増加しやすくなることを意味する。

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上記の推計値と実績値をグラフに示すと、いずれの国でも両者の間に一定程度の乖離(上記の推計式では説明できない部分)が生じていることが分かる(図表4)。上振れ要因としては、訪日ビザの発給要件緩和やLCCの就航数増加、免税制度拡充などが影響したものと考えられる。一方、中国や香港では2012年半ばから2013年末にかけて下振れているが、これは尖閣諸島問題に伴う日中関係悪化などが影響しているとみられる。

このように、訪日旅客数の決定要因は国によって異なることが明らかとなった。訪日旅客数は殆どの国において実質GDP、為替レートに対して弾性的であり、アジア諸国からの訪日旅客数は著しい経済成長や円安の進行によって大きく増加してきた。また、訪日ビザの発給要件緩和や免税制度拡充など政策面からの押し上げ効果も大きかったものと考えられる。