「Brexit(ブレグジット、英国のEUからの離脱)」を問う英国の国民投票まであと3日。「国民投票が終わるまでは」と「リスク回避」に身構えつつも、「結局、離脱とはなるまい」との根強い見方があった一方で、英ポンドが急落するなど、英国のEU離脱を織り込もうとしているような動きもある。今なお結果の読み切れない状況が続いている。

それだけではない。先週半ばには、EU残留を支持していた英国議会の議員であるジョー・コックス氏が銃撃され亡くなり、残留派と離脱派の双方が政治運動をいったん停止するという事態にも発展。その後、コックス議員への襲撃事件前には、世論調査からは、押されていた残留派が離脱派を逆転するなど、ますます結果を読みにくくなってきている様子だ。

EUへの「残留派対VS離脱派」の選挙戦は混沌

3月初めにも、ブレグジットについて、「『不透明性』こそが最大の難点だ」と強調した。不透明さの強まる「投票後の影響」の度合いも、なかなか判断の付きにくい。英国内でも依然として意見が割れており、残留派か離脱派のいずれが勝つにしても僅差の勝負になるとみられる。

英国のEU離脱問題の背景を振り返ろう。英国のキャメロン首相は、EUに改革を求めたうえで2017年末までにEU離脱を国民投票に問うことを公約。その結果EUに対して懐疑的な有権者の支持も取り込んで2015年5月の総選挙に圧勝した。6月23日の国民投票は、この公約を果たす形でキャメロン首相が2月に表明したものだ。当時、EU加盟の賛否を問う選挙がこれほどの「パンドラの箱」になるとはキャメロン首相も想像していなかったかもしれない。

大陸欧州側でも「統合懐疑派」が勢力を伸ばす兆候が見える中、英国とEUあるいは独仏など大陸主要国との関係はギクシャクの絶えない、煮え切らないものになってゆくとの見方もある。統合欧州がどこへ向かうのか。中長期の視点からみる世界経済にとっても最大の不透明要因の一つだろう。

反対派を支える移民への反発、EUへの反感……

世論の変遷の背景にある争点は何だろうか。残留派はこれまで、EU離脱に伴う不確実性の高まりが英国の景気や雇用に悪影響を与えると強調することで、おおむね優位な支持率を保ってきた。反撃し劣勢を挽回してきた離脱派の主張は移民急増が雇用や安全への脅威になることを強調し、支持率でも巻き返しを図ってきた。

経済的な損得からすれば、IMF(国際通貨基金)など国際機関や多くの著名エコノミストたちの「援護射撃」を待つまでもなく、残留派に分があるとみられている。が、「経済VS生活」というレベルのいわば「価値論争」になると俄然「離脱派」への共感が高まっている様子だ。

別の見方をすれば、所得の増加や株価の上昇を犠牲にしてでも、安全、安定、アイデンティティ、環境といった市場の外にある価値を重視しているということになる。また移民の労働力と直接競合する貧困層よりもむしろ、中産階級でそうした主張が強まっているという調査結果が報じられているという。

もう一つ、離脱派の拠り所として重要なのはEUそのものへの反感だとみられる。国家の主権を脅かす「共同体主義」への反感であり、EUという機構の「官僚主義」への反感でもある。ひょっとすると、「EUを我が物顔に仕切り、独り勝ちの繁栄を享受しているドイツへの反感さえ含まれているかもしれない」と見るのは穿ち過ぎだろうか。

英の「EU残留対EU離脱」選挙後は?

ブレグジットの是非が明らかになった後、選挙後のシナリオを整理しておこう。まず離脱派勝利の場合はどうだろうか。

最近の世論調査結果を受けてある程度身構えていたとはいえ、市場には予想以上の混乱が生じよう。英国にとどまらず、欧州はもちろん米国や日本を含む全世界規模でのショックとなる可能性を指摘する声も少なくない。中期的にも、英国の貿易や資本取引に制約が強まるほか、ロンドンの国際金融センターとしての機能低下、多国籍企業の「英国離脱(大陸への移転)」も避けられない。

EU側が被る打撃も大きい。英国経済の減速による影響や、世界経済におけるEUの存在感の低下など経済面もさることながら、「欧州統合のプロジェクト」が初めて直面する有力国の離脱という歴史的事実が持つ政治的な意味は限りなく重い。多くの国で「国民国家が全ての問題への解決策」というポピュリズム・ショービニズム政党が躍進し始めている中、政治の右傾化・EU懐疑派の台頭をますます助長することが懸念される。移民・難民問題への対応も当然後手を引くことになろう。

加えて英-EU関係の清算・再構築には数年間にわたる困難な交渉・協議が必要となる。EU条約第50条に基づくこのプロセスがいつから、どの英国新首相のもとで、どんな着地点を目指して進められるのか、現時点ではすべてが前例のない霧の中だ。

他方で、残留派が勝利する場合も当然にある。すでに述べたさまざまなダメージが回避される以上、市場やビジネスにとっても朗報になるのは間違いないだろう。ただ残留派が勝つとしても僅差だとすれば、多くの重要な問題が未解決なまま今後もくすぶり続ける可能性も否定できない。

離脱派勢力の中には、「国民投票で負けた暁には暴動を」と呼びかける動きさえあるという。「統合欧州がどこへ向かうのか」という観点からはむしろ不透明性が増大することを覚悟しなければなるまい。

より大きな視野からは、グローバル化の浸透したっ世界での、ガバナンスの不足をどう埋めてゆくか大きな課題ともなっており、主要国に課せられた課題の一つでもあろう。先駆的実験であった欧州統合が今後どんな道を歩むのか、巨大な潜在成長力を持つアジアの国として、大きく成長する中国の隣国として複雑な環境に置かれる日本にとっても「他人事」では決してないだろう。(岡本流萬)

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