人気のあるものには、すぐに行列ができる。遊園地のアトラクション、有名なレストラン、駅の窓口、病院の受付、…と、至るところで行列ができる。ワクワクするような楽しいことを待つために、行列に並ぶのは、大して苦痛ではない。しかし、嫌なことを待つときや、急いでいるとき、待つ環境が厳しいときなどには、大変な苦しさを味わうこともある。
行列に並んでいると、誰もが考えるのは、「あと何分、待たなくてはならないのか?」ということだろう。待ち時間を知りたいという思いは、行列を待つ人に、つきものと言える。特に、待つことが苦痛に感じられる場合には、イライラ感も手伝って、その思いが強くなる。
行列の長さが比較的短ければ、待ち時間の推定はしやすい。例えば、ある駅の窓口で、自分の前に10人が並んでいて、1分間で1人ずつ窓口で用を済ませているとしよう。この場合は、待ち時間は10分と推定できる。ただし、窓口で1人にかかる時間が大体同じであることや、行列に横入りするようなズルをする人がいないことなどが、推定が当たるための条件となる。
それでは、行列がもっと長いときには、どうしたらいいだろう。例えば、人気のある遊園地のアトラクションや、好評の博覧会のパビリオンの前には、長蛇の列ができることがある。行列の最後尾からは、大まかに何人ぐらい並んでいるかを見積もることはできても、1分間に何人が入場したのかは、よくわからない。
このような場合、「リトルの法則」が役に立つ。この法則は、アメリカのマサチューセッツ工科大学のジョン・リトル教授が、ケース・ウェスタン・リザーブ大学に勤務していたときに発表した。計画の立案をはじめ、経営上の様々な問題に対して、数学を用いて解決策を求める、オペレーションズ・リサーチという研究分野で、よく知られた法則となっている。
この法則では、自分が行列に並んでから、1分間に何人が自分の後ろに並んだかを数えてみる。そして、自分の前に並んでいる人数を見積もり、その見積もり人数を、1分間に自分の後ろに並んだ人数で、割り算してみる。その答えが、待ち時間の推定結果となる。
例えば、遊園地で観覧車に乗るための行列を考えてみよう。乗り場前には、つづら折りの行列ができていて、20人ほどで5列、即ち約100人が並んでいたとする。自分が列に並んでから、1分の間に、後ろに5人が並んだ。この場合、100人を5人で割って、待ち時間は20分と推定される。
リトルの法則を用いる場合、推定時間が当たるための条件として、行列の長さが同じまま変わらないことが必要となる。即ち、1分間に用を済ませる人数と、1分間に行列の後ろに並ぶ人数が同じで、行列の長さが、伸びも縮みもしないことが条件となる。
この法則は、社会の様々な場面で応用されている。例えば、工場で製品を作る場合、完成までには、様々な工程を経ることが一般的である。ある工程の投入口で、50ユニット分の材料・仕掛品が投入されるのを待っていて、1分間でその待ち行列に新たに10ユニット分が加わったとしよう。
リトルの法則を用いると、この工程の材料・仕掛品の推定待ち時間は、5分ということになる。この推定待ち時間が、もともと想定していた時間よりも長いようであれば、その原因を分析して、この工程の時間効率を高めることが必要となるだろう。
リトルの法則を用いて、行列の待ち時間の長さをコントロールすることも行われている。例えば、以前、アメリカのある道路の料金所では、開設するゲートの数を決める際、各ゲート前の車の行列が20台以内に留まるようにしていた。
つまり、行列が20台を超えそうになると、閉じていたゲートを開ける訳である。この料金所で、毎秒1台の車が新たに行列に加わるとすると、車の待ち時間は、最大でも20秒となる。このように待ち時間をコントロールすることで、ドライバーのイライラ感を抑えて、事故の発生を防いでいた。
この法則を応用して、店舗間の販売効率を測定することも行われている。例えば、A店と、B店の、2つのハンバーガーショップを考えてみよう。
A店は、12人の客が並んでいて、1人の待ち時間は3分であった。B店は、10人の客が並んでいて、1人の待ち時間は2分であった。このとき、A店では毎分4人が新たに行列に加わり、B店では毎分5人が行列に加わっていることになる。
行列の長さだけを見ると、A店の方が、はやっているように見えるが、販売効率を通じて、客の人気ぶりを比べると、B店の方が人気が高いことになる。
このように、リトルの法則を用いることで、行列を分析することができる。今後、何かの行列に並んで、イライラ感が募ってきたときには、この法則を思い出して、あとどれぐらいの時間を待てば、自分の順番になるのか、を考えてみては、いかがだろうか。
篠原拓也(しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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