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(写真=PIXTA)

2016年6月1日、安倍首相は2017年4月に予定していた消費税の10%への引き上げを先送りすると発表しました。国内経済への影響が出るか否かという時期の6月23日には、イギリスが国民投票でEUからの離脱を決め、その激震が世界を揺さぶっています。消費税の引き上げ先送りとは、現在と同じ税率8%に据え置くことです。いったいそれは実体経済、特に不動産価格にどう影響を及ぼすのでしょうか?

どの国も予期していなかった英EU離脱

5月26、27日の伊勢志摩サミットで安倍首相は、「世界経済はリーマン級の危機に直面している」と主張し、ドイツをはじめとする英米首脳から反発を受けました。後になって政府首脳が「(安倍首相は)そうは発言していない」と修正したほどでした。しかし、イギリスのEU離脱の衝撃は、リーマンショックと同程度か、それ以上の衝撃となって世界を駆け巡っています。投票結果が判明した頃、安倍首相は参院選の遊説で東北におり、官邸は不在にしていました。また、アメリカのオバマ大統領はカリフォルニアに出掛けて夕食会の最中でした。どの国も予期していなかったからこそ、衝撃が拡大したわけです。

消費税の増税延期は、一般の国民、企業が支払う税金が現状維持ということです。税率が上がらないということは、当然、家計や企業決算に好影響を及ぼします。だから、為替は円安に、株は株高に動き、さまざまな経済指標は上向き傾向にありました。実際に6月の経済概況は、そう動きつつあったのです。しかし、「6.23ショック」が原因で、日本は一挙に「円高」「株安」の逆噴射に見舞われました。

そう考えると、イギリスのEU離脱まで想定していなかったとはいえ、消費税引き上げを延ばした安倍政権の選択は、不幸中の幸いといえるのかもしれません。増税を決行していた時よりも、今はまだ「マシ」という訳です。

増税せずに社会保障充実は難しいのですが…

消費増税先送りは、実に周到に準備されたものでした。安倍首相は2014年11月に、2015年10月に予定していた消費税10%への引き上げ延期を発表した際、「再び延期することはない」ことを「断言いたします」と述べていました。これを「その時の約束と異なる新しい判断」で覆し、「参院選で世論の審判を受ける」のだというのが、この6月の発表です。2016年春から事前にアメリカの政府にも近い経済学者を招き、意見を聞くなどした上での発表でした。

「世論の審判を受ける」といっても、税を上げない政策に反対する世論は、過去にありませんでしたし、たぶん将来もありません。実際、新聞各社の世論調査でも、この「新しい判断」を問題視しないという声が多数を占めました。6月3〜5日にかけて行われた読売新聞調査では、再延期が「公約違反」とは「思わない」人が65%、「思う」人が30%でした。6月4、5日の朝日新聞調査でも、53%が「大きな問題ではない」と答え、「大きな問題だ」と答えた割合の37%を上回りました。

また、読売調査では、引き上げ再延期を「評価する」63%・「評価しない」31%、朝日調査でも「評価する」56%・「評価しない」34%と同じ傾向でした。増税を避けるためならば、以前の約束を破ることになっても容認するという「民意」ははっきりしています。

消費税増税には反対する一方で、税の上積みがなければ、どこにも資金の出所のない社会保障費の増額を求めるのが世論です。しかし、インフレ率がアップし、消費が増なければ税収は伸びません。そして、消費税据え置きによって「消費が増える」ことを予想している人は、調査結果で1割もいないのです。

駆け込み需要を期待した新築不動産需要の当てが外れた

消費税導入時も、その後の増税の時も、実施前に駆け込みで住宅着工数が伸び、その後、反動減で数字が落ち込んだというのが過去のパターンです。消費税3%が導入時は、駆け込み需要で20〜30%増加しましたが、増税後は20%程度の減少、消費税5%導入時は、10%程度増加に対し、増税後31.1%もの落ち込みとなりました。

このような消費税前後の動向は、供給側も意識してきました。

住宅の消費税は、原則的に引き渡し時の税率が適用されます。契約時期や内容にかかわらず、消費税引き上げ時期までに引き渡しを受ければ税率8%、引き上げ以降には10%が適用されます(建築請負契約に限っては、引き上げ半年前までに契約を締結すれば、引き渡しが引き上げ以降になっても税率8%)。

今回の場合、2017年4月の10%引き上げが法律で決まっていました。まさに今、2016年が駆け込み需要の真っ最中だったのです。その法律の約束が「新しい事情」で外れるということは、3ヵ月前から根回しされた施策といえども、不動産業界の関係者にとっては、思いがけない変更でしょう。