アベノミクス,企業貯蓄,成長戦略
(写真=PIXTA)

安倍政権が注力している「一億総活躍社会」の関連予算の財源として、アベノミクスにともなう経済成長で底上げされた税収を当てることができるのか、議論が進んでいるようだ。

ネットの資金需要は財政政策でコントロールできる政策変数

2015年度の決算の税収の当初見通しから、上振れ幅(1.8兆円程度)から特殊要因を除き、1.7兆円程度が念頭にあるようだ。一方で、この1.7兆円は円安や好調な景気・マーケット環境を前提にしている。そのため、安定財源としては認められないという反論もあるようだ。

いまだに財政の議論の多くは、会計のミクロ経済学の方法論で硬直化し、マクロ経済学としての柔軟性が欠けているようだ。マクロ経済学での財政議論では、アベノミクスによるリフレへの政策哲学のシフトにより、どれほどの安定財源が生まれたと考えられるのであろうか?

日本の内需低迷・デフレの長期化の原因はいくつか挙げられる。企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことだ。言い換えれば、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要の水準が、企業の貯蓄率を前提として、どれだけ財政政策が景気刺激的なのかを示す政策変数であると言える。

実際に、2000年代は企業貯蓄率が大きく変動していても、ネットの資金需要はゼロ%近くに張り付き、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)をマイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度であり、成長を強く追及せず、安定だけを目指す財政政策であったと言える。ネットの資金需要の動きを見ると、バブル期にはGDP対比-10%程度、平均では-5%程度、デフレ期は0%程度、そして+5%程度になると信用収縮をともなうデフレスパイラルになると考えられる。

ネットの資金需要は受動的な変数であるように見えるが、財政政策によってある程度コントロールできる政策変数と見なしてもよいと考えられる。企業貯蓄率が高く、景気が悪い時には財政赤字を増やし、企業貯蓄率が低く、景気が良い時には財政赤字を減らす。