日本の内需低迷・デフレの長期化には2つの大きな原因があった。1つは企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要(マイナスが強い)がゼロ。もう1つは国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことだ。
企業貯蓄率の見方は意見が分かれるところ
この企業貯蓄率と財政収支は、日銀資金循環統計の資金過不足を基にした、金融取引を表すものになる。実物取引の裏には必ず金融取引があり、実物取引でも過不足をつくることができ、理論的には両者は一致するはずだ。
実物取引で発生した余剰(貯蓄超過)は、金融取引を通じて調整され、必ず金融資産の増加ないしは負債の返済に当てられる。よって、実物取引からみた過不足と金融取引からみた過不足は、表裏一体の関係にあり、概念上は一致する。需給ギャップ(需要不足、GDPギャップ)の考え方は実物取引のもので、実物取引の過不足が需給ギャップとほぼ同じ概念となろう。
毎年末に公表となる国民経済計算確報には、金融取引と実物取引の過不足の両者とも公表されている。ただ、統計的な誤差があり、両者は完全には一致しないが、おおまかなトレンドは同じとなる。企業貯蓄率を見る時、金融機関を含めた概念を使うのか、非金融だけを見るのかは意見が分かれる。
金融危機後に貯蓄が多くなる金融機関の存在がポイント
通常は、金融機関は資金の融通をするだけで、一定期間で平均すれば、過不足はゼロであるはずで除かれるが、金融危機後に最も貯蓄をするのは金融機関であることに問題がある。内部留保などによる自己資本の早急な積み上げが必要とされ、その貯蓄行動が需要とマーケットの収縮をスパイラル的にするリスクとなる。よって、金融を含めた企業を使った方が、金融危機が周期的に起こる現状をうまく説明できる。
実物取引の過不足で、企業が余剰になっていること(異常なプラスの企業貯蓄率)は、貯蓄に対して投資が不足しており、需給ギャップがあることを意味する。政府がそれを埋め切れているのかを見るために、企業と政府を合計したネットの資金需要(GDP比%)を総合的な需給ギャップの代理変数とする。
家計の貯蓄率がプラスで、ネットの金融資産が蓄積していくのを前提とすれば、需給ギャップの0%に対応するネットの資金需要は、しっかりとしたマイナスとなるはずだ。マイナスが大きければ需要が強くインフレに、プラスになれば需給ギャップは、デフレをスパイラル的にするリスクがあるほどに大きいことを意味する。