需給ギャップと政策の議論はスピードが命

国民経済計算確報は公表が遅く、そして家計以外は四半期データがないため、使い勝手が悪い。よって、公表も早く、四半期データが揃っている日銀資金循環統計をベースにした議論をする必要がある。

同じ金融取引でも、資金循環統計と国民経済計算では乖離もみられる。しかし、理論的には、金融取引と実物取引、資金循環統計と国民経済計算の結果は一致するはずである。需給ギャップと政策の議論をする場合、スピードが命であることを考えると、資金循環統計を使っても問題はないだろう。

2016年1-3月期のネットの資金需要(企業貯蓄率+一般政府収支、GDP対比)は、金融を含んで+2.6%、金融を除くと+2.8%で、金融機関のバランスシートは健全で貯蓄率は0%程度で安定しているので、現在はその差はあまりない。

ネットの資金需要が消滅しているということは、需給ギャップが存在し、少々のショックでデフレに戻ってしまうリスクが大きく、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失している。

秋の臨時国会の補正予算次第で、年明けに更なる積み増しか?

アベノミクスのデフレ完全脱却へのモメンタムは、ネットの資金需要が復活したこと、そしてそれを金融緩和により間接的にマネタイズしたことによって生まれたと考えられる。しかし、グローバルな景気・マーケット動向が不安定な中、消費税率引き上げ、社会保障負担の増加、そして歳出キャップという緊縮財政が進行し、ネットの資金需要は再び消滅してしまった。

ネットの資金需要が消滅していれば、マネタイズするものが存在せず、量的金融緩和はほとんど無効となってしまう。ネットの資金需要をマイナスに戻すためには、GDP対比3%程度の財政政策による需要が必要になる。

更に、アベノミクスの最大値である-2.6%(金融を含む)まで財政政策だけで戻すには、5%程度の需要が必要だろう。

企業貯蓄率が短期的に上昇(ボトムから3.4%、2014年10-12月期の+2.6%から2016年1-3月期の+6.0%)しているのが、政策対応による刺激やグローバルな景気・マーケットの安定化で戻ると仮定する。すると、その3.4%と3%の財政出動の合計で6.4%となり、現在の+2.6%のネットの資金需要を-3.8%まで戻すことができる。

デフレ完全脱却へのアベノミクスのモメンタムを早急に再生するためには、15兆円程度の財政支出(政府の一般会計と財政投融資から直接支出する額)を伴う経済対策が必要であろう。秋の臨時国会に提出される補正予算の規模が十分でなければ、例年通り来年1月の通常国会で更なる景気対策の補正予算で積み増す必要があろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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