大戸屋, 役員人事, お家騒動
(写真=PIXTA)

栄養バランスのとれた和食の定食が味わえる「大戸屋」。ビルの地下や2階などに入っていることがほとんどで、女性ひとりでも気軽に入れる店づくりをコンセプトにしています。筆者もこれまで関東圏内の大戸屋に何度か足を運んだことがありますが、いつも店内が混み合っており、その人気を実感していました。

しかし、最近気になるウワサを耳にしました。「大戸屋の味が落ちた」というのです。いったい何があったのでしょうか。

創業者の急逝後、社長が経営方針を変えたことが発端

大戸屋は、1983年に義理の父から大衆食堂を引き継いだ三森久実氏が創業。1990年代前半には現在のような店舗スタイルが確立され、今では国内のみならず、海外にも店舗を構える人気チェーンに成長しました。

しかし昨年7月に、久実氏は肺がんで57歳の若さで急逝。亡くなる直前の昨年6月、2013年に大戸屋ホールディングスに入社した息子の智仁氏が常務取締役に任命されました。

久実氏が亡くなり、社長であった窪田健一氏が経営を担うようになったことで事態は変わります。窪田氏は昨年11月に智仁氏を常務取締役から取締役に降格。さらに今年2月、智仁氏は取締役を辞任しました。

役員人事に反対相次ぐ

今年5月中旬に発表された役員人事案では、取締役11人のうち8人を新たに選任し、窪田氏を含む3人を残留させるという案を発表しました。新たな取締役には医師であり外食産業経験のない久実氏の実兄や、元取締役なども含まれています。

この役員人事に久実氏の妻・三枝子氏、息子の智仁氏が反対を唱えました。2人は久実氏の死後、久実氏が保有していた約18%の株式を相続しています。

窪田氏が「一旦は窪田氏の提案する役員人事案に合意した智仁氏が、数日後に合意を破棄した」と述べる一方で、智仁氏は「父が亡くなってから、窪田氏と話し合いができない状況にある。常務取締役から取締役に降格になった件についても説明を受けていない」と訴えています。今年6月に行われた株主総会では、窪田氏の役員人事案は通ったものの、賛成した株主は全体の約6割と厳しい状況でした。

参考:
日刊スポーツ
NET IB News

お家騒動は大戸屋の「味」も変えてしまうのか

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

窪田氏が変えたのは人事だけではありません。久実氏が力を注いでいた事業に関しても、これまでとは違う方向へと歩みを進めようとしています。

久実氏は料理に使用する野菜を自社工場で栽培するなど、味にこだわりを持っていました。しかし窪田氏は「収益につながらない」ことを理由に、葉物野菜などを栽培していた山梨の植物工場から撤退。また、大戸屋では店内で仕込みや調理を行う方式をとっていますが、利益を優先させるとなるとオペレーションを変えてしまう可能性も考えられます。

現社長に対する厳しい視線

久実氏が健在だった頃は、大戸屋は他の外食チェーンとの差別化として「手作りの定食」と「多店舗展開」を両立させ、顧客から支持を得ていました。

現在の窪田氏のやり方に対する見方は厳しいものも多く、株主総会では「味よりも利益を追求しているようにしか見えない」との声もありました。ネット上でも、最近の大戸屋に関して「味が落ちた気がする」「値段と味が見合わない」といった声が挙がっています。

経営方針や人事を変えることが、直接料理の味を落とすことにつながるわけではないでしょう。しかし、今後大戸屋が会社の収益を優先させるようになってしまうと、これまでのファンが離れてしまうことにもつながりかねません。

大戸屋のお家騒動は長期化すると見られていますが、大戸屋が大切にしてきた「おかあさんの味」に影響しないことを願うばかりです。

参考:
VISUALTHINKING
東洋経済オンライン
YOMIURIオンライン