金融小説,夏休み
(写真=PIXTA)

2013年の半沢直樹シリーズで金融・経済の小説の面白さに目覚めた人が多いようで、未だに池井戸潤の一連のシリーズは本屋で平積みにされているほどの人気だ。

金融界はリーマンショック、バブル崩壊、ITバブル崩壊など、まさに「事実は小説よりも奇なり」を地でいく、スケールの大きな実話がたくさんある。そしてそれぞれの話の裏には、人間ドラマが隠されている。

証券投資が社会人として当たり前のたしなみになってきた今、金融界の真実に迫るようなレベルの高いストーリー、スリリングな展開、人間ドラマが見えるような、夏休みに寝るのを惜しんで読んでしまいたくなる小説を紹介しよう。

国際金融の最前線でスリリングなのは、真山仁 、黒木亮、高杉良の金融・経済3大作家だろう。銀行や証券会社の第一線で活躍した人や金融担当のジャーナリストだった人が多いだけに、彼らの見た金融界の大事件を疑似体験することは、金融リテラシーを上げるのにもうってつけだろう。

(1) 『ハゲタカ』作者: 真山仁 講談社 2004年

日本を代表する金融・経済小説と言えば「ハゲタカ」だ。続編『バイアウト(文庫版のタイトルは「ハゲタカⅡ」)』もあり、2007年にNHKでドラマ化、2009年には映画化されている。

未曾有の資産バブルの崩壊で日本は、株や不動産が大暴落、多くの金融機関が不良債権に苦しめられた。不良債権の急増で日本の証券会社、銀行も倒産の危機に面していた。日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、東京相和銀行の破綻、三和銀行、東海銀行、東洋信託がUFJホールディングスとして合併するなどの実話をもとにした壮大なストーリーだ。

作中では、ニューヨークの投資ファンドを運営する鷲津政彦は、不景気に苦しむ日本に舞い戻り、強烈な妨害や反発を受けながらも、次々と企業買収の成果を上げていった。不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる、こうした 外資系の再生ファンドを「ハゲタカ」と称した。

ただ鷲津の目的はハゲタカではなく、外資の資金を利用し経営難から救うことにあった。

(2)『巨大投資銀行』作者: 黒木亮 角川書店 2005年

同作品の時代背景は「ハゲタカ」と同じ頃だ。主人公の設定も似ており、ウォール街の大手投資銀行に勤める日本人が、投資銀行業務で培った経験を活かし、邦銀の再生に取り組むストーリーラインだ。

物語の主人公である桂木英一は、日本の都市銀行を飛び出し、実力勝負のウォール街の巨大投資銀行モルガン・スペンサーに転職した。巨額のM&Aや証券引受で勝機をつかみ、一流のインベストメント・バンカーへと駆け上っていく。

端的には、同作はバブル経済崩壊から今日に至るまでに、米・日金融戦争の最前線で繰り広げられた攻防を描いた経済小説だ。実在する組織や史実が巧みにストーリーに織り込まれている。ソロモンの通称「ソルト」と呼ばれる日本人トレーダー竜神宗一は、伝説のトレーダー明神氏がモデルだと言われている。

(3)『獅子のごとく 小説 投資銀行日本人パートナー』作者:黒木亮 幻冬舎 2010年

『巨大投資銀行』もいいが、黒木氏の作品では講談社100周年記念で書き下ろしたこの『獅子のごとく』も面白い。高給取りで、夢のようなサクセスストーリー世界を渡り歩いている国際金融マンが、実はどれだけ孤独で苦しいのかが切ない小説だ。

ゴールドマン・サックスのパートナーの持田氏をモデルにした小で説だと言われている。作中には、投資銀行は、狙った大型ディールとるためには違法すれすれの手段もいとわない様子も描かれており、投資銀行マンの厳しい現実も垣間見られそうだ。主人公の逢坂丹は、NTTの幹事獲得の実話と思われるディールをすすめながら、投資銀行で上り詰める一方で、壊れていくちょっと悲しいストーリーだ。

(4)『小説 巨大(ガリバー)証券』 作者:高杉良 講談社 1990年

時代はバブル真っ只中。「銀行よさようなら、証券よこんにちは」と証券会社の時代だった。インサイダー取引、主幹事をめぐる激烈な争い、会社乗っ取りなど、バブル経済を演出し、経済界に暗躍した巨大証券の現場を克明に綴っている。 野村證券をモデルにした作品といわれている。

ほかにも、野村證券については、1989年にアル・アレツハウザーという外人が米国で内幕を描いた『ザ・ハウス・オブ・ノムラ 』という書籍を発表しており、94年には日本語訳されていて、『小説 巨大証券』とともに話題になった。

(5)『小説 ザ・外資』作者:高杉良 光文社 2002年

真山仁「ハゲタカ」、黒木亮の「巨大投資銀行」と同じ頃で同じようなテーマの作品で、米系投資ファンドであるリップルウッド・ホールディングスが日本長期信用銀行を買収した事件をモデルに描いたとされる小説だ。

不良債権にまみれて朽ちた邦銀を、外資系のハゲタカファンドが骨の髄までしゃぶろうという典型的な構図で描かれている。映画化された『金融腐蝕列島』では旧第一勧業銀行の総会屋事件をモチーフにした著者が、どのように描いたのか。金融・経済3大作家のそれぞれの描き方を比較できるのが楽しみだ。