(6)『訣別 ゴールドマン・サックス』作者:グレッグ・スミス 講談社 2012年
外国人の暴露本で面白い本をすこし紹介しておこう。中でも名門として知られるゴールドマン・サックスは別格の存在だが、グレッグ・スミスが記した同書は、名門投資銀行の内幕を赤裸々に綴っている。
投資銀行はエリートにとって憧れの職場だ。その最難関ともいえる倍率をこなしてゴールドマンに入ったエリートが、会社や業界の内情を暴露した。同時多発テロがあり、リーマンショックがあり、株式デリバティブ部門で昇進して若くして幹部になっていたスミスのサクセスストーリーだけでなく、挫折や悩みが赤裸々に描かれている。
ちなみに、同書の原稿はもともと、ニューヨークタイムズに寄稿されて話題になったもの。ゴールドマン・サックスを退社する社員が、経営陣を批判することは極めて異例で、読み応えある内容だけではなく、珍しさからも一読の価値があるといえるだろう。
(7)『ライアーズポーカー ウォール街は巨大な幼稚園』作者:マイケル・ルイス 角川書店 1990年
バブルの頃の米投資銀行ソロモン・ブラザーズは債券や株のトレーディングで名門だった。その債券トレーディングチームを引っ張っていたのが、後のLTCMという過去最大のドリームチームのヘッジファンドを設立して破綻するメリーウェザーの著書となっている。
同氏は債券セールスマンとしてソロモンに勤務した、退社後に発表した、ウォール・ストリートの内情をつぶさに紹介するドキュメンタリーだ。同書の中では、債券トレーダーたちの傲慢さ、尊大さ、日常的な乱暴・狼藉などが描かれており、アメリカでは大ベストセラーとなった。投資銀行のトレーディング・フロアの様子を体験するにはもってこいの本だ。
ちなみにマイケル・ルイスは、2003年にも「マネー・ボール」という大リーグ弱小球団の小説でベストセラーを出した。マネー・ボールは2011年にブラッド・ピット主演で映画化されている。
(8)『私がベアリングズ銀行をつぶした 』作者:ニック・リーソン 新潮社 1997年
1995年にイギリスの投資銀行であるベアリングス銀行が破綻した事件を破綻させた本人が書いた手記だ。1996年にイギリスで出版され、1999年にはイギリスで映画が公開された。
ベアリングス銀行は、イギリスで女王陛下の資産運用をしていたほどの名門投資銀行であったが、1980年代の金融ビッグバン以降にはトレーディングに特化した投資銀行化していく。
同銀行は日本株の高騰で大きな利益をあげたが後に、日本のバブル崩壊で大打撃を被った。1995年にはシンガポール支店のニック・リーソンのデリバティブ取引の失敗で当時史上最高の1380億円の損失を出し、ベアリングス銀行は破産。233年の歴史に幕を閉じた。
リーソンはシンガポール国際金融取引所 (SIMEX) および大阪証券取引所に上場される日経225先物取引を行っていたが、1995年に阪神・淡路大震災が起きて日経株価指数が急落し、損失が拡大。損失を秘密口座に隠蔽すると同時に、先物オプションを買い支えるための更なる膨大なポジションを取った。
儲かっているときのシンガポールでのバブリーな様子、損失が出始めてからの苦悩が生々しい。トレーディングをやる人には是非読んでほしい作品だ。
(9)『希望の国のエクソダス』作者:村上龍 文藝春秋 1998年
“金融小説”ではないかもしれないが、行き詰まった日本で80万人の中学生が学校を捨て、ネットビジネスで蜂起して、共同体や社会を建設していくストーリーを描く小説だ。
同作では、80万人の中学生達が情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長。その後、全世界の注目する中で、エクソダス(脱出)が始まった。
壮大な規模で現代日本の絶望と希望を描く傑作長編で、今でも十分にスリリングな展開にのめり込んでいける。 18歳選挙も開始され今まで以上に若者の社会参加が目立ってくるとの見通しとも重なる。
(10)『オレたちバブル入行組』作者:池井戸潤 文藝春秋 2004年
ドラマ化もされ非常に大きな話題にもなった「半沢直樹」シリーズの第一作だ。バブル絶頂期にエリート銀行員として入行した半沢直樹は、気がつけばつらい中間管理職になっていた。会社の利益と顧客の狭間にたち、会社の出世競争にも巻き込まれる年代になっていた。
バブル入行組の意地と頑張りと出向などのちょっと悲しいストーリーはサラリーマンなら自分の姿とダブらせて応援したくなるだろう。シリーズ作品には他にも、「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」などもあり、まとめて夏休みに読むのには最もふさわしい作品だろう。(ZUU online 編集部)