モレスキン
(写真=ZUU online編集部)

1997年創業の会社ながら世界で年間1000万部を超える売り上げを誇る「モレスキン」。「そんなすごいノートなのか」と思って実物を見ると拍子抜けするかもしれない。長方形でオイルクロスの硬く分厚いカバー、クリーム色の紙、ページを留める黒いゴムバンド、四隅の角は丸く、裏表紙にはモノをはさむポケットがあるが、あまり普通のノートと変わらない。

しかし定価を見ると目を疑うかもしれない。種類によっては一冊2000円~3000円などはざらだからだ。なぜそこまで高いノートが売れているのかというと、その歴史によるところが大きい。

ゴッホ、ピカソ、ヘミングウェーらが愛したノートを復刻

モレスキンノートはイタリアのmodo&modo社から、「パリで販売されていた伝説のモレスキンノートを復刻した」という触れ込みで発売された。

何が伝説かいうと、大勢の著名人がこよなく愛しながら市場から消えた幻の逸品という話である。愛好者とされる人物はゴッホ、ピカソ、マチス、オスカー・ワイルド、ヘミングウェーなどそうそうたる面々だ。さらに紀行作家ブルース・チャトウィンが「パスポートはなくしてもこのノートはなくせない」と熱烈に推奨したために有名になったという。

オリジナルは19世紀後半に作られ始め、1986年には生産を終了。しばらくは入手できなかったが、97年にモレスキン社が誕生、98年に復刻されて再発されている。

ファンにとっては一大事の「メード・イン・チャイナ」表記

2006年にmodo&modoがSGCapital Europe(現Syntegra Capital)に買収され、社名が「モレスキン社」に変更された。そのとき、ある小さな変化がノートにもたらされた。

「manufactured in China」と表示されたのである。これはファンの間では一大事件だった。世界中から「利益目当てに質を落とした」と批判を浴びたのだ。

紙がざらざらになった、インクがにじむ、カバーから異臭がする、使い心地が悪くなった--真偽のほどはともかく、こうした失望の声が相次ぎ「もう使うのをやめた」という人も出た。元の「イタリア製」モレスキンを買い占めたり、ネットオークションで探し求める人もいた。

しかしこうした騒ぎの一方で、今までと比べてそんなに悪くない、普通に使ってるという層も少なからずいた。

どちらかというと激しく反発した人には「熱心な愛好者」が多かった。モレスキンに惚れ込み、崇拝に近い感情を持つ人たちだ。

別にモレスキン社はものづくりへのこだわりを捨てたわけではない。創業以来製品コンセプトはイタリア本社が行っていたが、元から製造拠点は海外が多く特にアジア地域が占めていた。このときも、単に「中国製」と明示しただけだったのである。

つまり「さすがイタリア製の上質ノート」と愛していた人たちのモレスキンも、大半は非イタリア製だったのだ(本社によれば現在一番生産拠点があるのは中国とベトナム)。