実用性だけでここまでの売れた訳ではない

原版のノートが支持された理由として、実用性があるのは間違いないだろう。その手のノートの中で堅牢で使いやすいモレスキン型は、需要ある少数にぴったりだったのではないか。旅行カバンの中でも運べる。

画家が画材と一緒に持ち運び、気に入った景色を素描したりアイデアを記すのにも使いやすかったはずだ。「立ったまますぐメモしやすい」という利点で、硬い表紙のメモ帳を愛用する新聞記者などは少なくないようだ。

しかしノートを販売していた製本業者は家族経営レベルの小さな会社だったとされる。小さいながら良心的な製品を作っていたという所だろうが、なぜ再販版はここまで世界的ベストセラーになったかというと、別の要素が理由といえそうだ。

「物語」のアピールで愛好者を増やす

mod&mod社は復刻にあたって「製品には“物語”が重要」として宣伝も重視した。小冊子をはさんでいかに過去の著名人に愛されてきたかをアピールし、各地の図書館に「伝説の品を復刻させるまでの物語」の記録とともに寄贈して展示した。

有名人のモレスキンを賞賛を引用したり「ありふれた大量生産ノートとは違う」とイメージを醸成したりして、会社としても、ものづくりにこだわる姿勢を示した。

結果「高品質で何か神秘的な素晴らしさがあるかのようなノート」となり、それに影響された人々が愛用しだした。信者のように自分から「ノートの素晴らしさ」を探し出す人が出たのだ。

中国製で激しい拒否反応になったのはこうした「イメージ」を傷つけるものだったからだ。当時の中国像はまだそれに対応できていなかった。

急激な産業化の歪みに対応できず、環境破壊、劣悪な労働環境、コピー・粗悪品というイメージを世界に与えてしまっていたからだ。

逆に「イタリアの職人の精魂込めた手作り」が通用したのは長年イタリアが培ってきた文化的なイメージのおかげだろう。

ブランドが大切にするもの

ロールスロイスは「金銭的な価値は消えても質は永遠に残る」として当時としては異例なぐらい堅牢性やスピード、デザイン性を備えた作りにこだわった。

シャネルは装飾過剰なドレスの中で近代女性にふさわしい機能的でありつつシックな服装をもたらし革命を起こした。

「最初は」それだけ納得できる「質」がブランドにもあったのだ。

しかし今日では競合作品は豊富で技術革新も激しい。有名ブランドにかつてと同じ質の優位があるかは分からない。

しかし現在でも消費者は、確立されたブランドの好ましいイメージに強くとらわれ続けている。ぜいたくな消費は「物を買ってるのではなく経験を買っている」という言葉もある。これはモレスキンの支持者にも当てはまるといえそうだ。(ZUU online 編集部)