長期金利上昇/イールドカーブのスティープ化の銀行利益への影響度鈍化の背景
1)資産と負債の期間ミスマッチへの規制
金融機関の儲けの源泉の一つが、低い短期金利で調達し、高い長期金利で運用するという長短の金利格差(ミスマッチ)を利用することである。これが、長期金利上昇および、イールドカーブのスティープ化が金融業界の収益にプラスとされる最大の根拠である。
しかし銀行は、2007年に導入された規制で、運用と調達の期間ミスマッチのリスクの量が制限されるようになった(図表6)(原則として、金利が2%変動した時に生じる資産と負債の価格の変動を銀行の資本の20%以下に抑制することなどが求められている)。
更に今年4月、BISにより、金利リスクに対する規制が若干強化された。IRRBB (Interest Rate of Risk in Banking Book)規制と呼ばれ、金利リスクの計算方法が高度化される予定である。このため、長短のミスマッチを生かした収益拡大は今後益々難しくなると思われる。
2)短期市場金利連動貸出の増加
1990年代から、企業向け貸出に短期市場連動型金利が適用されるようになった。これ以降、銀行が独自に決める「プライムレート」をベースとした貸出が、徐々にTibor、Liborなどの短期市場金利連動の貸出に改められていった。今では、大手行で貸出の5割、地域銀行で2割強が短期の市場金利に連動している(図表7)。
固定金利の貸出は、固定物の住宅ローンやプロジェクト・ファイナンス等が代表的だが、競争が激しい現状では値引き幅が大きく、貸出金利は必ずしも長期金利にリンクして上下動しているわけではない。しかも、短期プライムレート連動の貸出と違って、一度貸出を行った既存の固定のローン金利が長プラの変動に応じて上昇するわけでもない。
このため、長期金利だけが上昇しても、大手行で2割、地銀で3割の固定金利貸出等が借り換えられる時まで待たなければ利益へのプラス効果は出ない。仮に、長期金利が0.2%上昇し、固定金利等の貸出が毎年3割ずつ高い金利に置き換わったとしても、利益へのプラス影響は大手行で年間0.6%、地銀で2.7%と、マイナス金利深掘り影響(翌年直ぐに、5%、20%の減益)に比べて大幅に小さい(図表8)。