厚生労働省が2014年に実施した調査(*4)によると、回答者の68.3%5か有給休暇の取得に対して「ためらいを感じる」(図3)と答えており、その最も大きな理由(複数回答)として、「みんなに迷惑がかかると感じるから」を挙げた。

また、「職場の雰囲気で取得しづらいから(30.7%)」や「上司がいい顔をしないから(15.3%)」を有給休暇の取得にためらいを感じる理由として挙げるなど、多くの労働者が職場の雰囲気や上司・仲間の視線を意識して有給休暇を使用していないことが分かる(図4)。

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(*4)厚生省(2014)「時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の現及び特別な休暇制度の普及促進にする意識調査)」
(*5)「ためらいを感じる」(24.8%)と「ややためらいを感じる」(43.5%)の合計
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◆ダイバーシティー(多様性)マネジメントの推進と生産性向上

働き方改革を推進している三つ目の理由としては、日本政府が奨励しているダイバーシティー(多様性)マネジメントや生産性向上が働き方改革と直接的に繋がっている点が挙げられる。

ダイバーシティー(多様性)マネジメントとは、個人の性別や人種、国籍などの違いにこだわらずに優秀な人材を活用する企業経営方式である。実際、(1)でも述べた通り、最近は経済のグロバール化が進むことにより、様々な環境に対応できる多様な人材の必要性が高まっている。

図5はOECD加盟国の労働者一人当たりの平均年間労働時間と労働生産性の関係を示しており、両者の間には負の相関があることが確認できる。例えば、ルクセンブルクの場合、労働者一人当たりの平均年間労働時は1,509時間で短いものの、労働生産性は138,909ドルで最も高い水準を維持している。一方、メキシコや韓国の場合、労働時間は長いのに労働生産性は低い水準に留まっている。

日本は既過去と比べて労働時間は短くなったものの、労働生産性は他の国と比べてまだ低い。例えば、2014年における日本の労働生産性(就業者一人当たり名目付加価値)(*6)は、72,994ドルで、OECD平均87,155ドルより低く、OECD加盟国の中でも21位に留まっている(*7)。不要な残業や休日勤務などが労働生産性を低くした原因である可能性が高く、日本政府は働き方の改革を推進することにより多様な人材を活用することで生産性を引き上げることを目指している。

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(*6)労働生産性 = GDP / (就業者数×労働時間)、購買力平価(PPP)により換算
(*7)公益財団法人日本生産性本部(2015)『日本の生産性の動向2015年版』
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おわりに

7月の参院選での勝利で、長期政権への礎をさらに固めた安倍首相は果敢な労働改革を実施しており、日本政府や多くの日本企業もこれに同調し速いスピードで改革が進もうとしている。

働き方改革は、非正規労働者の処遇改善、長時間労働の是正、ワーク・ライフ・バランスの実現、多様な人材が労働市場で活躍できることを目指しているものの、企業の立場からは大きな負担になることもあるだろう。また、労働の柔軟性や生産性を高める政策が同時に実施されることにより既存の正規労働者の雇用安定性は弱まる一方、労働強度は高まる可能性が高い。

働き方改革が生産性向上や経済成長だけを優先にすると、労働者の生活の質はより悪化する恐れが高い。そこで、働き方改革がマクロ的な数値を引き上げることを優先にするより、労働者の健康や生活の満足度を優先的に考慮して実施されることを望むところである。それこそが働き方改革による弊害を最小化し、より住みやすい社会の構築に繋がる「真の働き方改革」であるだろう(*8)。

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(*8)金明中(2016)「曲がり角の韓国経済第11回 労働者を優先した働き方改革を」東洋経済日報2016年9月2日を引用・修正。
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参考文献

  • 金明中(2016)「曲がり角の韓国経済第11回 労働者を優先した働き方改革を」東洋経済日報2016年9月2日
  • 厚生省(2014)「時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の現及び特別な休暇制度の普及促進にする意識調査)」
  • 厚生労働省「就労条件総合調査:結果の概要」各年度
  • 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
  • 公益財団法人日本生産性本部(2015)『日本の生産性の動向2015年版』
  • 首相官邸(2015)「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」2015年6月30日

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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