夫婦控除,税金
(写真=PIXTA)

「夫婦控除」の話題が今、現役世代の関心を集めている。先月30日、自民党の税調会長が2017年税制改正で現行の所得税の配偶者控除の見直しを検討している旨を表明したからだ。この配偶者控除の廃止に伴い、導入が検討されているのが「夫婦控除」である。夫婦控除とはどういう内容なのだろうか。そして、もし夫婦控除が導入されたら、私たちの家計はどのように変わるのだろうか。

今の配偶者控除の内容とは?

所得税の配偶者控除制度とは、世帯主のパートナー(多くの場合は妻)が働いていない場合、あるいは働いていたとしても小遣い程度の収入しかない場合に、年間合計所得が38万円以下ならば、その配偶者一人につき世帯主の課税前の所得額から38万円を差し引く制度だ。

昭和38年、日本が「男は外で働き、女は家を守る」というスタイルで高度経済成長期を迎えるにあたり、税金を安くすることで妻の夫への貢献についても税制上評価しようという趣旨により導入された。

その導入時からおよそ50年が経過した現代、男女や夫婦の在り方は昭和の頃と大きく様変わりした。夫婦共働き世帯が専業主婦世帯を上回っているだけではない。女性の働き方そのものが、パートやバイトといった補助的なカタチにとどまることなく、正社員や起業というスタイルで能力を発揮し、社会貢献をするものになってきた。妻が夫よりも高い収入を得ている世帯も珍しくなくなってきた。ただ、その一方、相変わらず夫の顔色と配偶者控除の適否を気にして、パートやバイトに甘んじている妻も少なくない。

そんな現況を鑑み、より現代に合わせた税制にすべく検討され始めたのが「配偶者控除制度の廃止」と「夫婦控除の導入」なのである。

政府が検討している「夫婦控除」とは

夫婦控除とは、夫婦のどちらかの所得の額が38万円以下であるかどうかに関係なく、夫婦両方の所得を合算し、その合計額が一定額以下ならば夫婦の所得額から控除をしようというものである。まだ検討段階なので、夫婦両方の所得を合算したうえで差し引くのか、それともどちらか一方の所得額から差し引くのかまでは明確ではない。

「夫婦控除」が与える私たちの家計への影響

配偶者控除が廃止され、夫婦控除が導入された場合、次のような影響が発生するだろう。

1.世帯間の所得格差による不平等が解消される

配偶者控除の廃止の話題に伴い、不安を覚える世帯が少なくない一方、これを歓迎する世帯も存在する。それは、夫婦ともに頑張って稼いでいるけれど、税制の恩恵が受けられない世帯だ。

実は、配偶者控除は、夫婦どちらかの収入が高ければ高いほどより税金が安くシステムなのだ。なぜなら、累進課税制度により、所得額が高くなればなるほど、税率が高くなる仕組みだからだ。この所得とは「所得額=収入額‐控除額」であるため、当然、税率は控除額そのものにも影響する。

サラリーマンの夫の収入が年500万円世帯と年1000万円世帯とを比較しよう。専業主婦の妻一人、子どもは小学生と保育園児で扶養控除対象外とする。また、便宜上、扶養控除と基礎控除以外の控除は考慮しないものとする

【年収500万円世帯の場合】
500万円(年収)→346万円(給与所得控除後の給与所得の金額)
※給与所得控除とは、税金計算上必ず年収額から差し引く所得控除。「サラリーマン控除」とも言われる。

346万円‐38万円(配偶者控除額)‐38万円(基礎控除額)=270万円 ∴税率10%
38万円(配偶者控除額)×10%=3万8000円…税額ベースに直した配偶者控除額

【年収1000万円世帯の場合】
1000万円(年収)→780万円(給与所得控除後の給与所得の金額)
780万円‐38万円(配偶者控除額)‐38万円(基礎控除額)=704万円 ∴税率23%
38万円(配偶者控除額)×23%=8万7400円…税額ベースに直した配偶者控除額

つまり、何もなくても世帯同士で5万円近くの差がついてしまう。仮に、500万円世帯の主婦が扶養の範囲内で稼ぎ、1000万円世帯の主婦が無職の状態でも変わらない。

さらに、この所得格差が大きければ大きいほど、税額ベースの配偶者控除の差額は広がっていく。

なお、上記はあくまでも所得税だけを考えて試算したものであり、実際には所得税での所得計算は、住民税のベースでもあり、住民税上でも同じように税額ベースの配偶者控除の格差が生じる。つまり、「生活の足しになると思って働けば働くほど低所得者には損」なのが現状だ。

配偶者控除を廃止し、夫婦控除を導入すれば、この不平等は解消され、夫婦で努力している世帯はちゃんと報われるシステムになるのだ。