米サンフランシスコで9月7日に行われたAppleのイベントに、任天堂 <7974> の宮本茂クリエイティブフェローが登場した。宮本氏はいわずと知れたマリオの生みの親。ある意味、同社で初めてとなるスマホゲーム「スーパーマリオラン」のお披露目だった。12月に世界100カ国以上で配信開始予定。ダウンロードも一部プレーも無料だが、ゲーム内要素をすべて楽しむには課金が必要のようだ。
任天堂といえば、最近話題になったのは世界中で爆発的な人気を誇る「ポケモンGO」だろう。これは米ナイアンティック社の開発によるものだが、任天堂は株式会社ポケモンとともに、同社に出資している。この株式会社ポケモンの株式も任天堂は保有しており、「ポケモンGO」による莫大な売り上げ、利益の一部は任天堂の収益にも好材料といえる。
しかし「スマホゲームは出さない」方針を貫いてきた任天堂。ゲーム専用機にこだわったためか最近は苦戦していた。今年3月にはスマホアプリ「Miitomo」を公開していたが、これはコミュニケーションアプリ。対して「スーパーマリオラン」は同社のIP(知的財産権)であるスーパーマリオを投入した、本格的なゲームだけに、任天堂ファンのみならず市場関係者からも期待が集まっている。
ファミコン、Wii、マリオのイメージの強い任天堂だが、そもそもどういう会社なのだろうか。
一貫して据え置き型家庭用ゲーム機にこだわってきた
スマートフォン向けゲーム市場が急拡大する中で、任天堂ではこれまで一貫して据え置き型家庭用ゲーム機販にこだわってきた。しかし世界中で1億台を売ったとされる「Wii」のヒットに比べれば「Wii U」や「ニンテンドー3DS」は期待を大きく超えるものとは言いがたく、市場関係者からはスマホ参入への期待の声が長らくあがっていた。
こうした中、2016年3月17日、同社はソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エー(DeNA)との業務・資本提携を発表。任天堂は今秋「どうぶつの森」と「ファイアーエムブレム」の2タイトルを公開する予定だったが、来年3月まで延期されることになった。それだけ「スーパーマリオラン」への本気度は高いということだろう。
もともとは「花札屋」 任天堂の歴史
すっかりゲーム会社となった任天堂だが、もともとは1889年、山内溥氏(前・任天堂社長)の曾祖父にあたる山内房治郎氏が京都の地で花札の製造を開始したことから始まる。
1902年日本最初のトランプ製造に着手し、53年には日本で初めてプラスチック製トランプの製造に成功。59年にはディズニーキャラクターを用いたトランプを発売したほか、かるた製造を自動化している。62年に大阪証券取引所2部、京都証券取引所に上場。63年に社名を現在の「任天堂株式会社」に変更している(旧:任天堂骨牌株式会社)。
1977年に家庭用ゲーム機「テレビゲーム15」「テレビゲーム6」を発売。78年には業務用テレビゲーム、80年には携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」を発売。81年に業務用ゲーム「ドンキーコング」を発売している。
そして83年、東証1部にも上場したこの年にファミリーコンピュータ(ファミコン)を発売した。「スーパーマリオブラザーズ」を発売したのはその2年後、85年のことだ。同年だけでファミコンは374万台、翌年には383万台と、すさまじい勢いで売れている。
89年にはゲームボーイ、90年にはスーパーファミコン。96年にはNINTENDO64、2001年にはゲームボーイアドバンス、ニンテンドー ゲームキューブと立て続けに発売している。
昨年7月に亡くなった岩田聡前社長が取締役社長に就任したのは2002年のことだ。岩田氏はもともと、ファミコンソフトを開発するHAL研究所所属で、社員から社長まで務めた。
岩田社長になってからでは、2004年に「ニンテンドーDS」、06年に「Wii」、08年に「ニンテンドーDSi」、11年に「ニンテンドー3DS」、12年に「Wii U」、14年に「Newニンテンドー3DS」を発売。この間に同社の株価は7万円を超えている(07年11月ごろ)。16年9月現在の株価は2万7000円程度だから、およそ3分の1の水準だ。
その岩田社長が急逝して後、三和銀行(現 三菱東京UFJ銀行)出身の君島達己が取締役社長に就任。情報開発本部長で専務取締役であった宮本茂氏は「クリエイティブフェロー」に就いた。
宮本路線は転換したのか?
宮本氏はマリオのほか「ゼルダの伝説」や「星のカービィ」シリーズなどを開発した天才クリエーター。77年入社以来、ずっと一線で活躍し、米TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたことすらある。
もともと宮本氏の方針はスマホへの進出反対。岩田社長も宮本路線を守っていたが、業績も低迷、投資ファンドからもスマホ向けゲームの開発を求められるなど株主からの圧力も高まっていた。
今回のAppleのイベントへの宮本氏の突然の登壇は、驚きとともに受け止められたが、「ついにこのときがきた」との声もある。宮本氏はウェブメディアへのインタビューなどで「子供たちが最初にゲームと出合う場がスマホであることから参入を決めた」としながらも、究極的な目標としては、マリオのゲームを本格的に楽しめる自社プラットフォームへの興味を高めることにあると見られている。
実際、同社は新しい次世代ゲーム機「ニンテンドーNX」を開発中とされる。同社は今年中にNXについて新しい発表をするとしており、今年の株主総会でも17年3月の発売を示唆している。
今回発表された「スーパーマリオラン」は、現在までに明らかになっている情報を総合るすと、ゲーム内の課金はアイテム購入ではなく、一度課金するとその後の課金はない仕組みと見られている。この点は「子供たちにも遊んでもらいやすい」として前向きに受け止められるだろう。
しかしゲームはどこまでいっても「面白いかどうか」。ゲーマーのみならず、マリオとともに育った親世代と、その子供たちからどれだけの支持を得られるのか。NX、そしてその後の任天堂の行方を占う試金石といえるかもしれない。(ZUU online 編集部)