メッセンジャーアプリが生み出すシナジー効果

メッセンジャーアプリはメッセージサービスを提供することによっても収益を上げることができますが、最も大きな特徴は強い集客力を持っている点が挙げられます。スマートフォンが普及した現在では多くの人がメッセンジャーアプリを通じてコミュニケーションを取っています。日本国内に限りますと、爆発的な普及を見せたどのSNSも2,000万ユーザー程である程度の普及の上限に達することが多い一方、LINEは5,000万ユーザーを超えています。つまりメッセンジャーアプリは、元々携帯電話を持つユーザーであれば誰もが利用するメッセージ機能という最も基本的な機能を踏襲し、かつその安さや機能的な使いやすさでそのメッセージ機能に対して急速なリプレイスをかけている機能であり、その点で今後もますますメッセンジャーアプリを通じたコミュニケーション人口は増えていくと考えられます。その結果、メッセンジャーアプリを保有することによって今後増えていくコミュニケーション人口を囲い込むことができ、それを様々なサービスにつなげることができるようになるのです。そのため、メッセンジャーアプリでのユーザー数は集客力に直結すると言っても過言ではありません。

このように、メッセンジャーアプリは集客という側面でインターネットにおける様々なサービスを強化することができ、多くのインターネットサービスを提供する企業と相性が良いという性質があります。既存のサービス、新規で開始するサービスにかかわらず、メッセンジャーアプリによる集客によってサービスを提供する機会を増やすことができるのです。LINEでフィーチャーされたゲームが日本国内で数ヶ月で1,000万ダウンロードを稼ぐ背景も、このメッセンジャーアプリ特有の高い利用率からくる集客効果の最たる例でしょう。メッセンジャーアプリを持っているか否かによってそのサービスの普及スピードが大きく変わってくるのです。そのため、インターネット企業にとってはメッセンジャーアプリを利用し顧客を押さえておくことは非常に重要となるのです。

また、メッセンジャーアプリ市場では複数の有力なアプリがシェア争いをする激しい競争下にあり、メッセンジャーアプリ企業としても生き残っていくために収益の柱を多様化し経営体力をつける必要性があります。また、そのことにより新しい付加価値を付けることに成功すれば、シェア競争においても優位性を獲得することにつながるという側面もあります。メッセンジャーアプリ企業は単独では有力なコンテンツを有していない場合が多く、この目的からも有力なパートナーと手を組むことが重要となってくるのです。現在、メッセンジャーアプリ企業をめぐるM&Aの動きが加速しているのはこういった事情があるためと言えるでしょう。


世界のメッセンジャーアプリ企業の動向

今年に入ってメッセンジャーアプリをめぐって大きなM&Aが続けざまに起きています。まずは2月14日発表された楽天による「Viber」の買収、そして2月19日に発表されたFacebookによる「WhatsApp」の買収、さらに本記事で取り上げているダウムカカオの誕生です。また、LINEによって完全に否定されましたがソフトバンクによるLINEの買収報道も流れました。今後もこういったM&Aの流れは引き続き注目されていくでしょう。

現在、メッセンジャーアプリは複数の有力なアプリが乱立している状況にあり、地域ごとにトップシェアを握っているメッセンジャーアプリも異なっています。主に欧米でのトップシェアを握っているのはFacebookが買収したWhatsAppです。現時点では世界で最も利用されているメッセンジャーアプリと言えるでしょう。また、Facebook自身も独自のメッセンジャーアプリ「Facebook Messenger」を保有しており、アメリカや日本でシェア2位を獲得しています。今後はFacebookがこのふたつのアプリを統合していくのか、どのような戦略でメッセンジャーアプリ市場に向かっていくのか注目されます。

アジアでは状況が大きく変わってきます。それぞれの国でトップシェアを握っているメッセンジャーアプリが異なっているのです。まず、日本ではLINEが71%のシェアを握っています。そして、中国ではテンセントの「Wechat」が82%、韓国ではカカオトークが95%のシェアを握っています。これらのメッセンジャーアプリが今後どのように東南アジアにおけるシェア争いを制していくのか注目されるところです。この他にも、楽天が買収したViberや、スマートフォン登場前にPCベースでのメッセンジャーアプリとして普及した「skype」など、有力なアプリが存在しており、まさに群雄割拠というような状況にあります。


メッセンジャーアプリをめぐる戦略

メッセンジャーアプリ市場では、サービスの加入者が増えれば増えるほどコミュニケーションを取ることができる相手が増えるため、先に市場シェアを獲得したものが有利になっていく側面があります。そのため、どのアプリが先に市場シェアを大きく獲得することができるのかという点が重要になります。国別で見てみると、スマートフォンの普及の早かった先進国を中心に大勢が決してしまっていますが、まだはっきりとトップシェアが決まっていない新興国を中心にどのメッセンジャーアプリが圧倒的なシェアを獲得することができるかがこれからの注目点となってきます。これを見極めるうえで、各社が他の中核サービスと組み合わせて新しい付加価値を生み出すために、今後どのような施策を打っていくのかに注意しておく必要があるでしょう。

また、国ごとに異なるメッセンジャーアプリがシェアを握っている状況が長く続くとは限りません。SNSでの事例を見てみると、今でこそFacebookが世界的に圧倒的なシェアを誇っていますが、もともとは国によってトップシェアを握るサービスは異なっていました。たとえば、日本ではかつてはmixiが圧倒的シェアを握っていました。つまり、ひとつの国においてシェア争いを制したとしても世界的なシェア争いに敗北し、メッセンジャーアプリ市場から淘汰されてしまう可能性もあるのです。こういった経緯も含めて、最終的にどのメッセンジャーアプリが世界を制するのか注目されるところです。

【関連記事】
市場を賑わすLINE(ライン)上場説とその影響【前編】~急成長モデルの裏側を追う~

photo credit: AISE Inc. cc