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アメリカが大統領選挙戦で沸き立つ中、トランプ氏の税金逃れ問題が今、注目を集めている。トランプ氏は1990年代に巨額の損失を申告し、結果、18年間にわたって不当に納税を逃れたと報じられている。有名人や大手企業、政治家の税金逃れはたびたびニュースとなるが、一般人はここで「はて?」と立ち止まるからもいるのではないだろうか。「何が脱税で、何が節税になるのか」と。

節税は法律範囲内、脱税は違法行為

では、節税と脱税はどう違うのだろうか。一言で言うと、節税は税法の目的や内容にのっとって行う税金の節約行為、脱税は税法の目的及び内容に違反して税金を不当に安くしたり、逃れたりする行為である。

具体的な判定基準や対処方法は国ごとによって異なるが、日本ではよく、「納税義務者又は徴収納付義務者が、偽りその他不正の行為により税金を不当に免れ、又は還付を受ける行為」が脱税である、とされている(所得税法238条1項、法人税法159条1項、相続税法68条1項、消費税法64条1項等)。そして、脱税の手法は大きく分けて次の二つがある。

1. 売上などの収入をわざと減らしたり、ゼロにしたりすること
2. 仕入れや経費の金額を水増ししたりウソをついて計上したりすること

実際には、故意でなくても脱税とみなされる場合もある。知識が伴わないが故の計算ミスや税法の解釈間違いにより本来の税額より少なく納めた場合にも、脱税の疑いがもたれることがある。この場合、故意ではないことがある程度立証されるのならば、脱税ではなく単なる「申告漏れ」として扱われる。ただし、延滞税などのペナルティは免れられない。

一方、節税は、税法内でいくつかの所得や税額の計算方法が定められている場合に、より税金が安くなる方法を選択したり、特定のケースに該当する場合に申告や必要書類を添付すれば税金を安くすることができる行為を指す。車や備品などの償却方法で定額法ではなく定率法を選んだり、日本版401kに加入して税金を安くする行為が節税に当たる。

脱税は犯罪、国税犯則取締法の存在

そしてもう一つ、節税と脱税で大きな違いがある。「脱税は犯罪」ということだ。つまり、刑事罰の対象となる。ただ、犯罪であるけれども、租税という特殊性から、刑事訴訟法ではなく、別途「国税犯則取締法」という法律により、担当の徴税職員に調査・処分の権限が与えられる。脱税と聞くと「マルサ(国税局の査察部)」を思い浮かべる方が多いと思うのだが、このマルサは、この国税犯則取締法により、地方裁判所または簡易裁判所の裁判官の許可を得て、納税者の臨検・捜索・差し押さえを行うことができる。また、このマルサの調査は強制調査だ。

そして、犯罪であるからには、刑法上でいう「構成要件」に該当している必要がある。ここでいう構成要件とは次のようなものだ。

1. 犯罪の主体は納税義務者
ここでいう納税義務者とは、単なる名義人ではなく、納付すべき税金の課税対象となる所得の帰属主体のことだ。たとえば、預金の名義が子どもであっても、その実質的な持ち主が親ならば親が犯罪の対象とみなされる。

2. 偽りその他不正の行為の認識
自分の所得や税金の計算方法などが偽りや不正であることを認識していることを指す。

3. 脱税の結果を認識していること
所得が存在するにも関わらず、これに対する正当な税額の一部や全部の納税を逃れる結果になることをわかっていることをいう。

また当然のことながら、罰則が適用される。所得税や法人税の場合には、5年以下の懲役や500万円以下の罰金、あるいはその併科とされる。