「マルサ」のリアル

では、こういった場合の調査はどのようなものだろうか。通常の税務調査と異なり、マルサの調査は納税者にバレないよう、調査を行い、証拠を集めていく。そして脱税の疑いが濃厚となったところで、一気にガサ入れに入るのだ。

一例をあげよう。ある新興の風俗営業の会社が数年前、マルサの調査を突然受けた。理由は、「外注費その他の経費の過度な水増し」。マルサは突然踏み込んできた。社長はのらりくらりとかわしたが、マルサは既に反面調査(取引先への証拠集めのための税務調査)を実施済み、証拠を突きつけられてもう逃げ場がない。帳簿だけでなく、パソコンなどの関連資料はごっそりまるごと持っていかれた。

調査はそれだけでは終わらない。マルサの取り調べはその後も続く。平均するとおよそ半年だ。調書を取られ、刑事処分相当となると、刑事告発されることになる。通常、法人の税務調査は3〜5年で1回、とされているが、マルサの脱税調査はこれが一切関係ない。内部告発などにより情報を掴んだら、たとえ新規設立の企業であっても調査に動く。

なお、脱税の案件になりやすい業種としては、不動産業、飲食業(クラブやバーなど)、建設業などの業種だ。いずれも、事業としてのサイクルが極めて短く、そのため、理念を掲げた長期的な経営維持ではなく、目先の利益を追って一発勝負に賭ける傾向にある業種である。「今ここで稼ぐしかない」と思うと、税金は「払う意味のないもの」という位置づけになってしまうのだろう。

税金は「払う意味がない」ものなのか?

税金は、モノの購入やサービスと違い、費用対効果の分かりにくい支払だ。実際に自分の支払っている税金がどう使われているのか、そして自分自身にどう還元されているのかが分かりにくい。だから税制改正のニュースで「増税」の二文字を目にすると誰もがため息をつくのだろう。

しかし、税金は日常の私たちの生活に活きている。税金がなければ、帝王切開で出産することはできないし、医療費も3倍から10倍に跳ね上がる。図書館もなくなるから日本人の識字率は一気にさがるだろうし、水道の水を安心して飲めなくなってしまうかもしれない。我々の「当たり前」の中にこそ、税金は使われているのだ。

年末調整や確定申告の時期はこれからだ。申告の際には魔がさすこともあるだろう。けれど、一人一人が納税に誠実でなくなった瞬間に、日本の平和は破たんする。脱税を含め、税金の話題に触れる際には、是非、税金が我々の身近に生きていることを思い浮かべてほしい。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理については、リトリーブサイコセラピーにて大鶴和江氏に師事。税金や金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。ブログ「 経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ

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