多くの人が、医療保険について勘違いしていることがある。それは状況次第では医療保険に加入している意味さえ危うくなるほど致命的なもので、人によっては支払っている保険料がまったくの無駄であるケースもめずらしくない。

今回は、医療保険加入の有無に関わらず日本国民ならば知っておくべき医療保険に関するいくつかの点について紹介すると共に、そもそも医療保険とはなんのために加入するものなのかなどについて解説する。これから医療保険に加入する方も、すでに医療保険に加入している方も、ぜひ保険見直しの参考にしてほしい。

目次

  1. そもそも医療保険とは?
  2. 医療保険加入は精神的不安の解消が目的
  3. 大部分をカバーする公的医療保険
    1. 評価療養
    2. 選定療養
  4. 複雑な民間医療保険
    1. 入院給付金の落とし穴
    2. 手術給付金が支払われない手術の存在
    3. 先進医療は日々更新される
  5. 医療保険は本当に必要なのか
  6. 公的医療保険と民間医療保険の違いを理解しよう

そもそも医療保険とは?

医療保険は、病院など医療機関を受診した際に生じた医療費を保険者が負担・給付する仕組みの保険である。おおまかに公的医療保険と民間医療保険の2種類が存在する。例えば、病気で診察を受けた際に診察費を負担する健康保険は公的医療保険であり、入院などに際して受給される給付金は民間医療保険によるものであったりする。

いずれも高額な医療費の負担緩和が目的であり、特に国民健康保険に関して日本は「国民皆保険」のため自覚無自覚に関わらず利用する人は多いだろう。ただ世界的に見ると公的医療保険への加入が定められているケースは割合めずらしく、先進国においてもほとんどの国が医療保険について任意加入という体裁を取っている。日本国内でも国民皆保険が達成されたのは1961年であり、成熟した制度とはまだまだ言い難いのが現状だ。

さておき、医療保険とはいわば国民に与えられたリスク回避の手段であり、本来は公的医療保険にさえ加入していればおおむね心配はないはずだ。実状に即しても、公的医療保険の範囲を超えた診療費が高額になることはそう多くない。それにも関わらず、ほとんどの人間が公的医療保険とは別に、民間医療保険に加入している現状がある。これはなぜか。

医療保険加入は精神的不安の解消が目的

医療費は、持病などを抱える人間が恒常的に支払うものを除き、およそ健康な人間にとって突発的に発生するリスクであり、日常生活をおびやかす一因に他ならない。この悪いところは、リスクの大小さえ事前に予測することは不可能だということだ。そのほかの保険についても言えることだが、医療費に関しては身近なものであるだけにより不安を煽りやすい。

多くの人間が公的医療保険と民間医療保険の両者に加入しているのは、ひとえにこういった捉えようのない不安を解消するためだ。大概の人間は大きなけがや病気をそう何度も経験することなく日常生活を過ごすが、これまでが平穏だったからといってこれから先何事もないとは限らない。

この精神的不安は、配偶者や子供を持った人間ほど顕著になる。守るべき存在が増えれば、その分あらゆるケースを想定して不安の種を取り除こうとするのは至極当然だ。一時的に入院する程度ならばまだ良い。ある日突然働けなくなることや、あるいは自分がいなくなることを想定すれば、備え過ぎるということはないだろう。

だが、それこそが多くの人間が勘違いしているいわば落とし穴なのだ。民間医療保険に加入することが、精神的不安を取り除くことに繋がるのだろうか。万が一のリスクに備えるというならば、いざというときに十分な金額の給付を受けられなければいけない。しかし現在あなたが加入している医療保険はそれを満たしているだろうか。

大部分をカバーする公的医療保険

あなたは、医療保険がカバーする適用範囲について理解しているだろうか。公的医療保険と民間医療保険とに分け、順を追って解説していこう。

まず公的医療保険について、もっとも一般的であろう国民健康保険を例にとると、大きく「保険診療」と「保険外診療」とにわけられる。保険診療とは保険で認められている治療法にかかる療養費であり、保険外診療とは保険で認められていない治療法にかかる療養費だ。

保険診療として認められている治療法は端的にいうと、科学的根拠が認められた推奨されるべき治療法で、通常重大な病気・けがに関してはほとんどが対象になっていると考えて良い。

問題となるのは保険外診療だが、その範囲は「保険診療以外のすべて」と非常に幅広く、これについて正しく認識していない人が特に多い。保険外診療は、さらに「評価療養」と「選定療養」とにわけて考えられており、まずそれぞれが包括する医療行為について触れなければいけない。

評価療養

代表的なものとして、先進医療が挙げられる。先進医療については民間医療保険などでも先進医療特約が付加されるものも多く、具体的な施術はともかくそういったものがあるということを認識している人は少なくないだろう。単純に、現在保険外である医療行為、と理解しておけばひとまず差し支えない。

昨今話題になったものとしては、レーシックやインプラントなどが挙げられる。これらも厳密には施術に種類があるため一概に先進医療と呼ぶべきか難しいが、ここでは割愛させていただく。

選定療養

次に選定療養について、いくつか代表的なものを紹介する。入院時に個室を選択した場合の差額ベッド代、予約診療、時間外診療、大病院の初診・再診などが、関わる可能性が高いものだろう。そのほか、歯科の金合金等(ゴールドインレー)、金属床総義歯、また180日以上の入院や制限回数を超える医療行為などが選定療養であり、保険外診療とされている。

共通するのは、必要性の有無だ。例えば差額ベッド代について、治療にあたって個室療養が必要だと判断されれば当然これは発生せず、通常の保険診療内での治療となる。予約診療や時間外診療についても、個人の都合を別とすれば必ずしもそれらが必要なわけではない。

このように、公的医療保険は医療行為の大部分をカバーしているものの、しかしながらそのすべてに範囲が及ぶわけではない。では民間医療保険はどうなのか、続けて見て行こう。

複雑な民間医療保険

民間医療保険の適用範囲は非常に複雑なため、入院給付金、手術給付金、先進医療特約などといった給付が発生しやすい主なケース毎に解説する。

入院給付金の落とし穴

まず入院給付金について、入院日額5,000円や入院日額10,000円などといった給付金がこれにあたるわけだが、これらは主に差額ベッド代や入院中の身支度品の補填として考えられている。ただし入院給付金は、「入院すれば無条件に支払われる給付金ではない」ということを理解している人は少ない。加えて、「入院している限り無制限に受け取れる給付金ではない」ということも認識しておくべきだろう。

前者は、いわゆる検査入院は給付対象外であるということ。通常の健康診断で入院することはまずないが、1泊2日で行われる人間ドックはめずらしくない。これは入院ではあるものの、直接的な治療を目的としているわけではないため給付金は支払われないのだ。このとき疾患が見つかりそのまま入院したのであれば、検査日も含めて入院給付金の対象となるが、少なくとも治療外の検査はすべて給付対象外であることを覚えておこう。

後者は保険会社や加入する医療保険の種類によっても異なるが、仮に30日型と呼ばれるタイプの医療保険に加入している人間が20日間入院後、再発などによりふたたび20日間入院した場合、入院給付金はどのように支払われるか。医療保険では一度の入院に関して制限日数を設けており、これを超えた入院については給付対象外となっている。

また、「一度の入院」とは同一の疾患を要因とする入院すべてを含んでおり、入退院を繰り返したとしてもその制限日数がリセットされることはない。この前提からさきほどの例を解説すると、30日型医療保険の入院制限日数は30日であるためそれ以上の入院は給付金が支払われない。今回は20日+20日=40日入院した計算になるので、10日分は給付対象外となるのだ。

手術給付金が支払われない手術の存在

次に手術給付金について、こちらも「手術した場合必ず受け取れる給付金である」と認識してしまっている人が多い。手術給付金の対象は、「88項目型」と「健康保険連動型」とに分けられ、それぞれ「600種類型」や「1,000種類型」などと記載されている場合もある。1,000種類型の方が当然対象手術は多いわけだが、88項目型が極端に不足しているというわけでもない。いずれも主要な手術はほとんどカバーしているため、一概にどちらの方が優れているかといった説明は適さない。

今回重要なのは、いずれにも含まれない手術が一定数存在するということだ。公的医療保険適用外の手術は言うまでもなく、公的医療保険適用の手術であっても一部対象外となる手術があるのだ。傷の処置や狭小な範囲での切開術、異物除去などがこれに当たる。いわば「手術と見なせないような処置」については大概手術給付金の対象外と考えて良い。これは保険会社や医療保険の種類を問わず共通だ。

しかしながら、公的医療保険が適用されない高額な治療などにおいて活躍するはずの医療保険で、これをカバーしていないのはいかがなものか。そこで加えられたのが先進医療特約だ。

先進医療は日々更新される

先進医療特約とはその名の通り、先進医療による治療を受けた際にその療養費の一部あるいは全額が給付されるという特約だ。保険会社によって上限に差はあるものの、いずれも500万円から2,000万円と破格だ。先進医療は扱う技術や機器の関係もあり、効果はあるが療養費も非常に高額で、自費で支払うことは困難なものばかり。がん治療で用いられる重粒子線治療や分子標的薬などは利用に数百万円かかってしまうが、これをすべて給付金で賄えるとしたらその効果は計り知れない。

ただし、先進医療特約にも懸案すべき点はいくつかある。まず一点は、先進医療を受けられるケースが稀であるということ。例えば先に挙げた重粒子線治療は「一部位に集中的に重粒子線を照射する」治療法であるため、動きの激しい臓器などにはそもそも利用することが難しい。そのほかにも、全身に転移しているような進度のがんも対象外だ。しかし、だからこそ先進医療特約によって付加される保険料は安価で済んでいるという側面もある。

先進医療特約のもう一つの問題は、先進医療という分類が流動的であるいということだ。平成28年9月1日時点で101種類の治療法が先進医療として認められているが、これは今後増減するだろう。新たに先進医療に加えられるものもあれば、逆に評価次第で先進医療から除外されるものもある。

問題となるのは、先進医療から通常の保険診療に移行した場合などだ。では通常の手術給付金が受け取れるかというと、医療保険加入時点では公的医療保険の範囲外であったためこちらに関しても適用外となる可能性が高いのだ。

医療保険は本当に必要なのか

これは先進医療特約に限らず言えることだが、民間医療保険の給付適用範囲は基本的に「現状の保険に照らし合わせた内容」であるため、変化には対応することができない。実際、国内で民間医療保険が誕生してから十数年の間にもさまざまなスタンダードが生まれている。

このような現状において、終身保障などに頼ることはあまり意味を持たないとして民間医療保険に加入すること自体を無駄とする専門家が一定数いることも事実だ。医療保険が必要か否か、専門家でも意見が分かれる以上、最終的に判断するのは自分しかいない。

公的医療保険と民間医療保険の違いを理解しよう

まず医療保険に加入する前に、あるいは見直しを考える前に、公的医療保険と民間医療保険の性質をあらためて理解すべきだ。最終的に医療保険を利用するにせよ利用しないにせよ、大切なのは自身が納得して選ぶことであり、そのために制度への理解は欠かせない。

最も良くないのは、「なんとなく」「周りに言われて」などといった理由で思考停止して医療保険に加入してしまうことだが、ここまで読んでいただいた方ならばその辺りはきっと問題ないだろう。