孫正義

ソフトバンクが昨年度の米国携帯通信3位のスプリント買収に引き続き、同4位のTモバイルを買収することが現実味を帯びてきました。まさに立て続けともいえるこれら買収には、ソフトバンクの重要な戦略が隠されていると考えられます。ソフトバンクはこの買収を通じてどのような戦略を押し進めていくつもりなのでしょうか。また、米国においてソフトバンクが成功するためには何がポイントとなってくるのでしょうか。今回はTモバイル買収に隠された狙いについて分析して いきます。


勝負に出た孫社長

M&Aを通じたソフトバンクによる米国の通信業界への進出攻勢が続いています。昨年度、ソフトバンクがディッシュとの激しい攻防の末、米国携帯通信3位のスプリントを買収しています。米国の規制当局が当該買収に対して安全保障上の問題があるということで待ったをかけたりと何かと話題になったこの買収劇には孫社長の確固たる意思が現れていたようにも思えます。

そして今年5月末、スプリント買収時にも噂になっていた同4位のTモバイルに対する買収交渉が進展しているという報道がなされました。Tモバイルの親会社であるドイツテレコムがソフトバンク傘下のスプリントによる買収を容認する姿勢を示したというのです。この買収が実現すればソフトバンクは米国携帯通信における上位二強に肉薄する実力を持つことになります。規制当局の承認が取れなければ買収は実現しませんが、日本の携帯通信市場においてドコモとKDDIの二強の状況から確固たる地位を築き上げていった時のソフトバンクの姿と重なります。一部報道では、この買収が破談になった場合、スプリントからTモバイルへ10億ドル(約1000億円)以上もの違約金が支払われることになっているとも言われています。孫社長にとってこの買収はそれほどのリスクを負ってでも実行するべき大きな勝負と言えるのでしょう。


米通信業界再編の可能性

2013年末時点での米国の携帯電話の契約件数を比較してみると、1位がベライゾン・コミュニケーションズの1億2130万件、2位がAT&Tの1億1037万件であるのに対し、3位のスプリントは5505万件、4位のTモバイルは4668万件となっており上位二強がそれ以下を大きく引き離しています。シェアが多ければ多いほど有利になる通信業界においてこの二強という状況をくつがえすのは厳しいと言わざるを得ないでしょう。

しかし、スプリントがTモバイルを買収した場合、単純計算をすると契約件数は1億173万件となり、順位は変わらないものの二強に匹敵するシェアを持つことになります。今まで二強が安住していた米国の通信業界はこの買収が実現することにより状況は一変し、施策次第ではスプリントがトップの座を奪い取る可能性も十分に出てくるのではないでしょうか。

もともと、スプリントの買収時にも米国の通信業界再編の可能性は指摘されていましたが、上位二強との差があまりにも開きすぎていたため、それを崩すには厳しい環境でした。そのため、スプリント買収がソフトバンクにとって本当に良い結果をもたらすのかどうかについては議論もあったと思います。しかし、Tモバイル買収という条件が加わることによって、スプリントを買収した価値も大きく高まることになります。やはり、孫社長はスプリント買収を決めた時点で既にTモバイル買収まで計算に入れていたと見るのが正しいのかもしれません。