スプリント再建とTモバイル買収

2013年7月のソフトバンクが買収した時点でスプリントは契約件数の減少傾向が続いており赤字を計上し続けている状態でした。買収後に多少の改善傾向が見られたものの、2013年10月~12月通期でも約10億ドル(約1000億円)の赤字を計上しており、通期では約30億ドル(約3000億円)の赤字となっています。買収後、ソフトバンクは日本と同様に価格戦略に打って出ており、2014年からは新プラン「フラミリープラン」を投入していますが、今のところ大きな効果が出ているとは言えません。米国では格安のMVNOが普及していることもあり、安い料金プランの展開だけでの顧客増加には限界があるのかもしれません。

業界の二強から大きく水を開けられているスプリント単独での再建は、いかにソフトバンクが価格戦略に長けていたとしても難しいのです。そこで、今後ポイントとなってくるのがTモバイルの存在で、Tモバイルの買収が実現した場合にそれをどのようにスプリントの再建につなげていくことができるのかという点が注目されます。


ソフトバンクの米国戦略

Tモバイルの買収がうまくいった場合には、ソフトバンクが得意としている安い料金プランに加えて、今後はスプリントとTモバイルの2社による規模のメリットを生かした再建策を展開していくことが考えられます。米国の通信業界ではスマホ普及でデータ通信量が増加するなか、ユーザーの通信環境の向上が各社の競争の争点になってくると見られており、高速無線通信LTEへの設備投資が重要な課題になっています。この点でスプリントは上位二強に遅れを取っており、今後この遅れを挽回していく必要があります。ソフトバンクも設備増強に力を入れていくとの発表をしていますが、Tモバイルが加わることによってより効率的に設備投資を進めて行くことが可能になるのです。設備投資による良質な通信環境の提供を前提として価格戦略により顧客を増やしていくというのが、ソフトバンクの米国における基本戦略となっていくでしょう。

ソフトバンクは最終的には米国通信業界における勝者となる道を目指しているのは間違いありません。もしスプリントの再建に成功した場合にはソフトバンクの利益に大きく貢献することになるでしょう。2013年通期における二強、ベライズン・コミュニケーションズとAT&Tの純利益がいずれも100億ドル(約1兆円)を超えていることを考えると、将来的にその利益が100億ドル(約1兆円)を超えてくることも十分に考えられます。これは、2014年度の営業利益予想を1兆円としているソフトバンクにとっても大幅な利益拡大につながるのです。

孫社長は2010年に30年ビジョンとして時価総額200兆円を目指すと語っています。現在のソフトバンクの時価総額は約10兆円なので、大幅な利益拡大が必要となるため、日本における事業が成熟してきた今、これからは世界に進出していくことが予想されます。米国への進出というのはその第一歩に過ぎないのかもしれません。


30年ビジョン達成に向けて

30年ビジョンでは時価総額200兆円を目指すと同時に組織構造を5000社に拡大するということも掲げられています。また、特定のビジネスにこだわらずにその時代に最も必要とされるテクノロジーやサービスを提供していくことが目標とされています。長期的に見ればソフトバンクにとってTモバイルの買収は、通信業を通じて米国に大きな基礎を作るためのひとつの施策に過ぎないのだろうと思います。今後、米国における足場を固めていきながら、様々なサービスを提供するIT企業との提携を進めていき事業に広がりを出していくことになるでしょう。30年ビジョンの達成に向けて、ソフトバンクが加速させていくことが予想されるM&Aに今後も注目が集まります。

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