教育資金贈与信託
(写真=PIXTA)

節税を考える上で、贈与税や相続税はもっとも注目すべきポイントだ。特に贈与税に関しては基礎控除などを始め、非課税措置が設けられている制度が多い。今回はその中でも、教育資金の贈与にまつわる一括贈与制度、これを信託契約することによるメリットや注意点について解説する。制度や信託を利用する前に、ぜひ確認していただきたい。

教育資金贈与とは

正式には、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」と呼び、平成25年の税制改正によって新設された特例制度である。直系尊属(両親や祖父母)による贈与について、平成25年4月1日から平成31年3月31日までの期間内に行われたもののうち教育資金と認められる資金は、1500万円を限度として非課税となる。

通常の制度(暦年贈与)により1500万円を贈与した場合、一般税率ならば500万円超、特例税率の適用においても400万円の贈与税が発生するが、一括贈与を行えばこれらを節税することが可能だ。贈与税対策として非常に有用な制度だが、これを信託契約するメリットとは一体なんなのか、続けて解説する。

信託にすることのメリット

教育資金の一括贈与は、申告さえ行えば条件を満たす贈与すべてに適用されるため、本来信託契約は必要ない。そもそも教育資金については都度贈与であっても基本的に課税対象としていないため、特例制度周辺の課税状況を把握していない場合などは、その辺りの適用範囲についてまず理解することを推奨する。

それらを理解した上でなお一括贈与を行い、かつこれを信託契約することのメリットは、ひとえに管理が容易になることである。一括贈与では教育資金として充てられた資金についてのみ非課税としているが、これを自身で管理することはなかなかに難しい。教育資金と認められる範囲の把握はもちろん、それらを申告するための領収書の管理など、知識がないままに対応できるものではない。

だが教育資金を信託により管理すれば、これをある程度の部分、銀行に委ねることができる。払い出し時の手続きなどを考えると手間はそう変わらないが、少なくとも段階的に教育資金として認められるか否かの判断が挟まれることになる。税制度について知識がない人間にとって、申告に際していわばアドバイザーが得られるというのはそれだけで精神的な支えになるのではないだろうか。

気を付けたいこと

教育資金の一括贈与は、受贈者(贈与された者)が30歳に達するまでを契約期間とする特例である。もし受贈者が30歳に達した際、一括贈与された資金が残存していた場合、この資金に対しては通常の贈与税が課されるため注意しなければいけない。1500万円までの教育資金が非課税だからといって無思慮に一括贈与してしまうと、将来的に想定外の贈与税が発生することとなってしまう。信託契約はもちろん、一括贈与の制度利用は一度行ってしまえば契約を破棄することはできないので、実際に使い切れる資金を贈与することが大切だ。

教育資金の一括贈与は、何度も触れた通り「教育資金についてのみ」適用される特例であり、信託契約を結んだ場合にはこれを満たしていなければそもそも払い出しが認められないケースもある。また支払いのタイミングによっては、領収書の提出が払い出しと前後することもあるだろう。この場合、資金が間違いなく教育資金として認められるものであるかどうか、こちらで判断せざるを得ない。信託により資金の管理を銀行に任せたとしても、やはり制度に対する理解は不可欠なのだ。

信託は引き出しタイミング、手続き方法や手数料で選ぶ

先述した支払いタイミングの違いにより、引き出す方法にも「後払い方式」と「事前支払方式」とがあり、すべての金融機関、信託商品が両方に対応しているわけではない。後払い方式ならば教育資金以外に資金を利用してしまう心配はないが、いざというときの対応力を考えると事前支払方式に対応した機関を選びたいところだ。引き出し手続きについても窓口のみの対応としている機関が少なくないため、身近に支点があるものを選ぶか、あるいは郵送やネットによる手続きに対応している機関を選ぶと便利だろう。

また手数料だが、口座開設手数料、口座管理手数料、払出手数料などがかかる機関もある。金額としてはそれぞれ微々たるものだが、特に長期の利用が見込まれる場合は無視できないポイントだ。

教育資金の一括贈与は節税効果の高い制度だが、利用目的が教育資金に固定化されてしまう。これは信託契約の有無に限らず同様で、一括贈与を利用する際には贈与しすぎないことが肝心だ。一括贈与による節税を検討している方は、暦年贈与や都度贈与といった方法でも最低限の控除が得られることを忘れないでほしい。