中国,日中関係,高速鉄道,インド,受注競争
(写真=PIXTA)

中国のWebニュースメディア「参考消息網」は12月2日、日中高速鉄道受注競争においてインドが日本に傾いたとする11月30日のロシアネットのニュースを伝えた。見出しは「日中高速鉄道の争い、戦火は全世界で燃え上がる、インドは日本に傾倒か?」である。

インドのモディ首相が11月10日~12日、日本を訪問した。若干の重要成果のうち、最も目を引いたのは、首相が高速鉄道の合作協議を進めたことだ。日中“高鉄之戦”はいよいよ温度上昇し、世界を巻き込んだ“戦争”となりつつある。現在それを体現している場所はインドであり、参戦者は国家指導者まで巻き込み、政治的影響も大きいという。さらに詳しく見ていこう。

インドネシアは変心するのか

今や日本と中国は世界の高速鉄道建設におけるリーダーである。昨年インドネシアは、この状況を手段として、うまく“運用”した。中国の取ったジャワ島のジャカルターバンドン間の高速鉄道計画は、140キロ、50億米ドルのプロジェクトだが、将来的にはスラバヤまで延伸され、730キロとなる予定だ。

しかし中国とインドネシアは相互矛盾を抱えている。中国はインドネシアにとって最大の貿易相手だが、一方では国家安全保障の脅威でもある。日本は主要貿易先の1つである上に、潜在的に軍事政治の盟友である。

2015年10月、中国の勝利が決まった後、インドネシアのジョコ大統領は特使を日本に派遣し、安倍首相へ断りを入れている。安部首相は失望を隠さなかった。最初の140キロを入札した者が、自動的に全路線の建設権を得る、と考えていたからだ。

ところが2016年11月以降、消息筋から、日本が途中からひっくり返すことは可能だという説が出ている。

それまで米国大統領選の結果は分からず、米国次期政権の東南アジアに政策は不透明だった。しかしトランプ政権発足となったからには、今後米国の関与は弱まり、中国と対立する日本のプレゼンスは上がる。こうした政治状況下、インドネシア最大級の基礎インフラの建設は“修改”を迫られるのではないか、というのである。

インドは日本を選ぶ

インドの状況はこれにくらべれば簡単である。日本-インド-中国の政治三角形の形勢は明らかだ。近年来、インドは何らインドネシアのような“迂回”戦略を取っていない。疑問をさしはさむ余地もなく、インドは外交政策において日本を偏重している。経済貿易関係は中・印の方が深いにも関わらずである。

日印同盟の進展は世界情勢においても重要な鍵だ。米国の覇権減少に伴い、今後真に継続発展が予想されている。したがってインドにとって、高速鉄道発展の基礎(インド鉄道は大半が20世紀前半の水準にある)をどちらに任せるかという一大戦略岐路は難題とは言えない。

日印双方は共同声明で、合作の基礎項目を確実に進めていく、とした。 まず全長500キロ、150億ドルの区間である。日本の技術を使い、資金の80%を50年の低利(年利率0.1%)借款でまかなう。12月に建設開始、2023年の開通を目指す。

北京は“一帯一路”の運輸構想を明確に発しているが、ニューデリーからは始終反応なしである。中国西部からアラビア海沿岸に至る経済回廊を建設する構想下、困難とは言え今でもニューデリーの反応に期待をしている。

この他、日本と中国との“高鉄抗争”は、ベトナム、マレーシア、タイーシンガポール、アフリカ諸国、中南米諸国まで全世界にわたっている。

ネットでは議論百出

このような状況に対する国民の反応はどうだろうか。ネットニュース・騰訊新聞のコメントは12月3日朝の段階で833、政治ニュースではまあ多いほうである。以下面白いものを拾ってみる。

  • インドが日本を選ぶのがそれほど意外か?中国を選ぶ方が意外ではないか。
  • インドの論旨は一貫している。我こそ新興の超大国である、インドは必ず中国に勝つと思い込んでいる。
  • 政治的に日本に負けたのだ。でも日本は低価格で建設することはできない。
  • 今後も倭寇と戦わなければならないのは、明々白々だ。
  • インドはドイツを選べばいいのに。
  • 必ず日本を選ぶ。だって日本の方が先進的だもの。
  • 中国に友邦国家は1つもない。これは本当だ。
  • インドは高速鉄道に浪費するな。日本製は高価で投資回収できないぞ。
  • 中国がインドを助けるのは自ら墓穴を掘ることになるだろう。
  • 中国には裏切者がたくさんいる。彼らはみな日本を助けているのだ。
  • 中国はまず自国のことを考えろ。まともな道路すらない地区がまだたくさんあるのだ。
  • 中国は不正当な手段を多用し、世界各地の市場を争奪、品質を低下させている。しかし日本は誠実であり、それが日本の競争力を支えている。

なかなか議論百出で活気に満ちている。このところ日本批判ネタを欠いていた影響もありそうだ。しかし中国の高速鉄道そのものが、日本、カナダ、フランスの技術を導入して誕生したことは、ネット世代にはあまり知られていないようである。

インドネシアでの高鉄建設はうまく進まず、日本に付け入るスキを与えているように見え、インドには、最初からあきらめが漂う。アジアの2つの大国で押され気味だ。この記事は極めて政治的である。ロシアメディアの口を借りて、事態の悪化に備え、予防線を張っているようにも見えなくもないからだ。

何しろ「参考消息」とは新華社の運営する直系メディアである。さらにいろいろな議論を仕掛けてくるのは想像に難くない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)