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世界の高級車販売台数のトップはずっとBMWであったが、2016年は12年ぶりにメルセデス・ベンツに首位を奪われることが確定的となっている。

2016年1月から11月の累計販売台数は前年同期比5.6%+の182万4490台、メルセデス・ベンツが189万3619台で、対前年同期比11.8%+となっている。11月末時点で7万台近くの差が開いている現在、あと一月で巻き返しのは難しいという判断が下されている。その原因はどこにあるのだろうか。

日本ではドイツ車が好まれる

日本市場ではどうだったのだろうか。2015年のトップはメルセデス・ベンツの6万5162台代、2位はフォルクスワーゲンの5万4766台、そして3位がBMWの4万6229台となっている。

日本では、フォルクスワーゲンのディーゼル燃費数値偽装問題が浮上するまでは、主力のゴルフを始め、フォルクスワーゲンが最も販売力を持っていた。2013年と2014年に関しては6万7000台を売り上げ、現在のメルセデス・ベンツよりも多い台数を販売していた。

ディーゼル問題が出た後の2015年でも、5万4000台近く販売されているのは、日本にフォルクスワーゲンファンの多さを裏付ける数値だ。

そして日本ではここ数年、メルセデス・ベンツが絶好調で、2014年2015年ともに6万台超える販売実績となっている。

この好調の要因は何かと考えた場合、上野金太郎氏が2013年に社長に就任して以来、その辣腕ぶりを発揮しているのではないかと考えられる。アニメCMを作る、TSUTAYAやAmazonとコラボレーション、バーチャルショールームを設けるなど、いわゆる高級車「ベンツ」の概念を壊す施策を打ってきたからではないか。

こういった試みは昔からのメルセデス・ベンツの顧客が離れていってしまうことにもつながったかもしれない。だが、それまで何段も高い位置にいたメルセデス・ベンツを、Aクラスはじめ、六本木のメルセデスコネクションでビール会社とコラボレーションをするなど、これまで自動車のインポーターがやってこないことを行って、人々の注目を集めたことは、やはりそれ以上の新しい顧客を取り込むことに成功したということなのではないだろうか。

日本人は輸入車の中でも、とりわけドイツ車が好きで、販売台数全体の約70%がドイツ車メーカーのものとなっている。こういった傾向を活かし、自分の国のユーザーにマッチングさせていくかというマーケティング手法が問われる世界で、メルセデス・ベンツ日本は成功しているのだと思う。

未来を感じさせることができるか

グローバルに話を戻そう。それではBMWは評判が良くなくなってきたのかと言うとそんなことはまるでない。

レンジエクステンダーをつければ航続距離500km以上走ることができる電気自動車i3、7シリーズのハイブリッドモデル、そしてM2のヒットなど、BMWにも今年さまざまな注目ポイントがあった。とくにM2クーペはBMWの高性能モデルを手掛けるM社が開発する高性能スポーツカーで、2002ターボの伝統を引き継ぐコンパクトなクーペだ。直列6気筒Mツインパワーターボエンジンの後輪駆動は、公道仕様ながらもサーキットを意識した走りが堪能できるものだ。

かたやメルセデス・ベンツはどうだったのか。今年はEクラスフルモデルチェンジのほか、さきのBMWのM社にあたる、メルセデス-AMGのラインナップを充実させ、走りにこだわる顧客の心を捉えた。

製品の面では2社とも甲乙つけがたい品質と評判だったが、なぜ今年はメルセデス・ベンツが首位に立つようになったのだろうか。その理由はメルセデスが自動運転技術を前面に押し出してきたからではないかと思われる。

メルセデスでは、交通の安全性を高めるため、そして障害などにより運転ができない人のための移動手段を提供すること、それからドライバーが快適であることを理由に、自動運転を推進している。

実際に今年フルモデルチェンジしたEクラスには、車線の維持や変更が自動でできるドライブパイロットリモートパーキングの仕組みを取り入れている。将来的には完全自動運転や、自動で駐車したりクルマを呼び出したりする機能を使えるようにしたいということだ。こういった未来の自動車社会への具体的なビジョンを常にアピールすることにより、ユーザーがメルセデスを選ぶようになってきたのではないかと思えるのだ。

だがメルセデスとBMWを単に販売台数の面だけで比較するというのも昔の概念なのかもしれない。

11月の終わりにはBMWグループ、メルセデス・ベンツなどのダイムラーAG、フォード・モーター・カンパニー、アウディとポルシェを含むフォルクスワーゲングループが、欧州の主要幹線道路に沿って超高速高出力充電のための合弁事業計画を行うというニュースが発表された。

インフラに近いジャンルでは互いに協力し合い未来の良きクルマ社会を作っていくという方向性はこれからますます強まっていくのではないかと思われる。言うなれば、未来のビジョンなき自動車メーカーは、衰退していく可能性もあるのではないだろうか。(モータージャーナリスト 高橋大介)