相続とは被相続人(亡くなった人)の財産すべてを相続人が引き継ぐ行為であるため、被相続人に多額の借金がある場合などは相続をしない方が良いというケースも起こり得る。そういったとき、相続人は相続を「承認」するか「放棄」するかを選択することができると民法において定められている。

目次

  1. 相続放棄とは
  2. 相続放棄をする注意点
  3. 相続放棄に必要な書類
  4. 相続放棄の手順と期間
  5. 単純承認と限定承認
  6. 相続放棄手続きの代行を頼むという選択肢

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が被相続人の相続財産を相続する権利、相続権を放棄することを指す。原則的に相続人は被相続人の相続財産を自動的に相続することとされているが、この相続財産に含むのはプラスの財産ばかりではない。被相続人に借金などの債務があった場合にはその支払義務までも引き継がなければならないのだ。

そのため、特にマイナスの財産が多い場合などにこれを引き継ぐか否かを選択できるよう、相続人には相続を承認するか放棄するかという選択権が与えられている。相続放棄が相応しいケースというのはあくまでも相続財産にマイナスの財産が含まれる場合であって、逆に次のようなケースにおいてはあまり相応しくない。

相続放棄をする注意点

例えば被相続人の財産を配偶者と子が相続したとき、配偶者にすべての財産を相続させたい場合において、子に相続放棄をさせて手続きを簡略化できないかと考える人がいる。しかしこのケースにおいては、子に相続放棄をさせてしまうと次の順位(子は第1順位であるため第2順位)の人が相続権を得ることになってしまい、かえって手続きが煩雑になってしまう。

誰かに相続財産を集中させたいような場合には、相続放棄ではなく遺産分割協議において「配偶者にすべての財産を相続させる」などとすれば十分で、無理に相続放棄を行う必要はないのである。相続を放棄する必要があるのはあくまで、マイナスの財産があった場合(かつそれがプラスの財産よりも多い場合)だということを覚えておくべきだ。

相続放棄に必要な書類

さて、いざ相続放棄を行おうとしたときには、次の書類を家庭裁判所へ提出しなければならない。

  • 相続放棄申述書
  • 申述人(相続人)の戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍謄本等(亡くなった事実が確認できるもの)
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票(本籍地記載)
  • 収入印紙(1人当たり800円)
  • 連絡用(返信用)の郵便切手
  • 申述人の認印

基本的には上記の書類等を管轄(被相続人の住所地)の家庭裁判所へ提出することが求められるが、家庭裁判所によってはこれ以外の書類を求める可能性もあるため、申述書の調達などと合わせて事前に確認すると良いだろう。

相続放棄の手順と期間

相続放棄が認められる期間は、原則として「相続があったことを知ったときから3か月以内」とされている。この期間中に、前述した必要書類を用意し家庭裁判所へ提出することで相続放棄は認められるのだが、場合によって3か月という期間では申述が間に合わないケースがある。

具体的には、相続開始直後の調査段階では借金等の債務が見当たらなかったため相続の承認をしたが、その後貸金業者などの債権者からの連絡によりこれを知ったという場合、例外的に期間外でも相続放棄が認められる可能性がある。

ただしこのケースにおいて相続放棄が認められるのは「債務があったことを知る余地がない」ことが前提であり、対象となる資産(ローンが組まれた住宅など)について名義変更などの手続きが済んでいる場合には基本的に認められない。

こうしたケースはあくまで例外であると割り切り、相続開始後は速やかに相続財産の調査を行うことを心がけた方が良いだろう。

単純承認と限定承認

可能な限り調査を行ったにも関わらず、その相続財産の総額を見極めることができなかった場合、すべての相続財産を引き継ぐこと(単純承認)には抵抗があるだろう。だが同時に、財産が残る可能性があるならば相続放棄をすることも選択しづらい。

このような場合は、「相続によって得た財産の限度額まで債務等を引き継ぐ」という限定承認を選択すると良いだろう。限定承認を申述する期限は相続放棄と同様に相続を知ったときから3か月以内とされており、また相続人が複数人いる場合はその全員で申述しなければならない。加えて申述後は対象となった相続財産の清算手続きが行われることとなるため、相続人が財産を自由に扱うことはできなくなる、などいくつか注意点があることも覚えておこう。

相続放棄手続きの代行を頼むという選択肢

相続放棄にせよ限定承認にせよ、行うべき手続きはそう多くないものの、しかしながら相続開始より3か月以内という期間は思いのほか短い。特に大切な方が亡くなった直後であれば相続財産の調査もままならない可能性がある。

こういった場合には無理に自身で手続きを行おうとせず、身近な法律相談事務所などの専門家を頼ると良いだろう。