相続は被相続人(亡くなった人)の死亡によって自動的に開始されるが、いざ相続が開始した際に手順を調べ始めたのでは申告期限などに間に合わなくなってしまうかもしれない。

今回は相続にまつわる手続きについて網羅的に解説する。今後相続人となる可能性のある方、あるいは遺産を遺す側の方もまた、これを確認して将来の相続へ備えていただきたい。

目次

  1. 遺産相続の対象となる財産
  2. 相続を行う手順と流れ
  3. 遺産相続でトラブルを避けるためには
  4. 遺言書を遺す際は遺留分の取り扱いに注意

遺産相続の対象となる財産

相続の対象となる財産を相続財産というが、一口に相続財産と言ってもその詳細な範囲を解説することはできない。というのも、相続財産には「税法上における相続財産」と「民法上における相続財産」の2通りの考え方があり、それぞれ相続財産として含む範囲が異なるのである。

税法上における相続財産とは、すなわち相続税の申告に際して税額計算の基礎となる財産であり、主に「担税力(税の支払い能力)」を考慮して設定されている。

民法上における相続財産とは、遺産分割において相続分計算の基礎となる財産であり、主に「公平性」を考慮して設定されている。

例えば、被相続人が生命保険に加入しており、その死亡保険金の受取人が相続人のうちの誰かであった場合、この保険金は「税法上は相続財産(みなし財産)」であり、「民法上は相続財産に含まない」こととしている。

そのほかにも、被相続人から相続人が生前に贈与された財産は「税法上は相続財産に含まず(相続税の課税対象外)」、「民法上は相続財産に含む(贈与分の持戻し)」とされているなど、それぞれ違いがあるため混同してしまわないように注意しよう。

より実際の相続に基づいて言うならば、まず遺産分割のために「民法上における相続財産」を調査し、相続人がそれぞれの相続分を受け取った後に「税法上における相続財産」によって課せられる相続税を納めることとなる。

相続を行う手順と流れ

相続を行う大まかな手順は、次の通り。

①遺言書の確認→②法定相続人の確定→③相続財産の調査→④指定相続分(遺言書)がない場合、あるいは指定相続分に従わない場合は遺産分割協議を開始→⑤遺産分割協議書の作成→⑥相続した財産について相続税申告及び納付

相続財産について、限定承認や相続放棄といった手続きを行う場合は、相続開始より3か月以内に管轄の法務局へ申請する必要がある。

所得税について、申告義務(確定申告)がある者より相続をする場合には、相続開始から4か月以内に相続人がこれを代行(準確定申告)しなければならない。

そのほか、不動産を相続した場合、相続の対象となった不動産について名義変更(相続登記)を行う必要がある。この相続登記には期限や罰則等は設けられていないものの、遺産分割協議などにおいて重要な指標となりうるため、当該協議書の作成と合わせて対応すると良いだろう。

遺産相続でトラブルを避けるためには

相続に際してもっともトラブルが発生しやすいのは、その取り分(相続分)を巡って行われる遺産分割協議である。これは主に遺言書による財産の指定(指定相続分)がないことが原因であるため、被相続人が遺言書を遺すことがなによりも重要だ。

遺言書のない相続では民法において相続人の範囲や順位、その相続分などについて一定の定めがあるものの、それらはあくまでも目安であって従うことを強制されるものではない。特別受益による財産の持戻しや、寄与分による相続分の見直しなどが協議に含まれると、これは一層難航する。

遺産分割協議において話し合いがつかない場合には、相続人の申し立てによって遺産分割調停へとその協議の場を移すことができる。

調停においてもなお合意が得られなければ自動的に審判手続きが開始されるため、遺産分割協議がいつまでも終わらないということにはならないが、そこまで至ってしまった場合、相続人同士の繋がりがどのようになっているかは想像に難くないだろう。

遺言書を遺す際は遺留分の取り扱いに注意

では遺言書さえ遺せば相続にまつわるトラブルの一切が回避できるのかというと、そうではない。遺言書を遺す場合には、相続人の遺留分に配慮しなければならないのだ。

遺留分とは「各相続人が最低限保証されるべき取り分」として民法において定められている相続分の割合で、遺言書(指定相続分)に従って行われる相続においてのみ発生するものである。

仮に遺言書において「財産のすべてを配偶者へ遺贈する」という指定があったとしても、相続人に被相続人の子供や直系尊属が含まれる場合にはこの指定を否認し、自らの遺留分を確保することができる。

そのほかにも遺言書を遺す際には、その指定が「指定相続分」なのか、「特定遺贈」なのか、「遺産分割方式の指定」なのか、など考慮すべき点はいくつもある。せっかく遺した遺言書が相続人の間におけるトラブルの種となってしまわぬよう、注意して作成していただきたい。