ASEAN主要6カ国 の12月の消費者物価指数(以下、CPI)の伸び率(前年同月比)は、総じて上昇した(図表1)。
CPI上昇率は昨年からの原油価格の反転を受けて上昇傾向が続くなか、12月はクリスマス休暇に伴う需要増や通貨安に伴う輸入インフレなども上昇要因となった。もっとも経済成長は緩慢でコアCPI上昇率は安定しており、物価の上昇ペースは緩やかなものとなっている。
インドネシア の16年12月のCPI上昇率は前年同月比3.02%増(前月:同3.58%増)と低下した(図表2)。CPI上昇率は9月以降、天候不順や光熱費の上昇によって上昇傾向が続いていたが、12月は政府の価格統制の影響で4ヵ月ぶりの低下となった。
主要品目別に見ると、食材が同5.69%増(前月:同8.53%増)と大きく低下した。政府の価格統制によって香辛料が同34.6%増(前月:同66.4%増)と低下するなど、幅広い品目で低下傾向がみられた。また加工食品・飲料・タバコは同5.38%増(前月:同5.43%増)、住宅・電気・ガス・燃料も同1.90%増(前月:2.12%増)とそれぞれ若干低下した。一方、運輸・通信・金融は同0.72%減(前月:同1.38%減)とマイナス幅が縮小した。
食料品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同3.07%増(前月:同3.07%増)と、年明け以降は緩やかな低下基調にある。
1月18-19日に開かれた中央銀行の理事会(金融政策会合)では、CPI上昇率が中央銀行の2016年のインフレ目標(4±1%)の下限まで低下しているものの、米新政権発足を前にした国際金融市場の不透明感の高まりを考慮して政策金利を据え置いた。
タイ の16年12月のCPI上昇率は前年同月比1.13%増(前月:同0.60%増)と、2014年11月ぶりの1%台まで上昇した。(図表3)。CPI上昇率は16年以降、原油価格の上昇を背景に緩やか上昇傾向が続いている。
主要品目別に見ると、運輸・通信が同3.01%増(前月:同0.46%増)とガソリン価格の値上げを受けて大きく上昇した。一方、食品・飲料は同1.36%増(前月:同1.49%増)と、野菜・果物の価格上昇が和らいだことから小幅に低下した。なお、住宅・家具も同1.18%減と引き続き低迷したほか、たばこ・酒類は同12.98%増と昨年2月のタバコの物品税引き上げを受けて二桁増が続いている。
なお、コアCPI上昇率(生鮮食品とエネルギー除く)は同0.74%増(前月:同0.72%増)と若干上昇したものの、概ね1%を下回る水準で安定している。
CPI上昇率は、タイ銀行(中央銀行)のインフレ目標の範囲内(1-4%)まで上昇したが、その要因は生鮮食品とエネルギー価格によるものであり、依然として景気の回復力は緩慢であることが分かる。中央銀行は17年のインフレ率が1.5%と緩やかな上昇に止まり、物価目標の下方で推移すると予測している。
マレーシア の16年12月のCPI上昇率は前年同月比1.8%増と、前月(同1.8%増)から横ばいとなった(図表4)。CPI上昇率の基調としては、昨年3月~7月にかけて景気低迷やGST(物品・サービス税)導入による物価押上げ効果の剥落により低下した後、食品価格や原油価格を中心にごく緩やかな上昇傾向にある。
主要品目別に見ると、運輸は同0.6%減(前月:同1.5%減)と、自動車維持コストの上昇を受けてマイナス幅が縮小した。一方、食品・飲料は同3.7%増(前月:同3.8%増)と、小幅に低下した。食品・飲料の内訳を見ると、食用油の補助金廃止の影響を受けた油脂(同36.9%増)の高騰が続いているものの、コメ(同0.7%増)や肉類(同3.0%増)の低下が全体を押下げている。なお、住宅・光熱は同2.1%増と、5ヵ月連続の横ばいで安定している。
食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同2.1%増(前月:同2.2%増)と若干低下し、低位で安定した推移が続いている。
1月18-19日の金融政策委員会(MPC)では、中央銀行は2017年のインフレ率が原油価格の上昇を背景に2016年の2.1%を上回ると示し、政策金利を据え置いた。中央銀行は、最近のリンギ安に対しては金融引締めではなく、企業に対するリンギの両替義務など規制の導入で対応している。
シンガポール の16年12月のCPI上昇率は前年同月比0.2%増(前月:同0.0%増)と上昇した(図表5)。CPI上昇率は今年5月を底に緩やか上昇傾向が続いており、12月も幅広い品目で上昇傾向が見られた。
主要品目別に見ると、運輸は同0.8%増(前月:同0.3%減)と、ガソリン価格の上昇と駐車料金の値上げによって上昇し、1年5ヵ月ぶりのプラスに転じた。またサービス価格は同1.6%増(前月:同1.5%増)と、通信料金の値下げにもかかわらず、12月の休暇費用の増加を受けて上昇した。このほか、食品も同2.1%増(前月:同2.0%増)と若干上昇した。一方、住宅・光熱費は同3.8%減(前月:同3.7%減)と沈滞受託市場の鈍化によってマイナス幅が若干拡大した。
自動車と住宅を除いたMAS(シンガポール金融管理局)のコアCPI上昇率は同1.2%増(前月:同1.3%増)と小幅に低下し、依然として低水準で落ち着いた動きとなっている。
MASは2017年のインフレ率が0.5%~1.5%と、ガソリン価格の上昇や駐車料金の値上げなどを背景に2016年の▲0.5%から上昇すると緩やかに上昇すると予測している。
フィリピン の16年12月のCPI上昇率は前年同月比2.6%増(前月:同2.5%増)と、クリスマスシーズンの需要増を受けて小幅に上昇した(図表6)。CPI上昇率は昨年2月から食品価格を中心とした緩やかな上昇傾向が続いている。
主要品目別に見ると、まず全体の4割を占める食品・飲料(酒類除く)は同3.6%増と、クリスマスシーズンの需要増や大型台風に伴う農産物の生産の落ち込みによる野菜・果物の高止まりにより、前月の同3.3%増から一段と上昇した。また運輸も燃料や輸送サービスの価格上昇の上昇を受けて同1.9%増(前月:同0.5%増)と上昇した。なお、今春から上昇傾向が続いていた住宅・水・電気・ガス・燃料は同1.3%増と、光熱費こそ引き続き上昇したものの、賃料の低下を受けて前月から横ばいとなった。
食品とエネルギーの一部を除いたコアCPI上昇率は同2.5%増と、前月の同2.4%増から若干上昇した。強い消費需要を背景にコアCPI上昇率も緩やかな上昇傾向にある。
中央銀行はインフレ率が17-18年は電気料金の引上げや石油価格の上昇、強い内需を受けて上昇し、物価目標(2-4%)の範囲内で推移すると予測している。
ベトナム の16年12月のCPI上昇率は前年同月比4.7%増と、前月の同4.5%増から一段と上昇した(図表7)。CPI上昇率は依然として政府目標の5%を下回る水準で推移しているものの、昨年後半から上昇基調が続いており、14年7月以来の水準を記録した。
主要品目別に見ると、保健・ヘルスケアはウェイトが全体の5%と大きくないものの、伸び率が同55.7%増(前月:同48.1%増)と医療費の引上げによって一段と上昇した。また運輸は同1.1%減(前月:同1.8%減)と、ガソリン価格の値下げを受けてマイナス幅が縮小した。このほか教育は10.8%増と、新学年が始まった9月から二桁増が続いている。一方、食品は同2.9%増(前月:同3.1%増)、住宅・建材は同3.3%増(前月:同3.6%増)とそれぞれ小幅に低下した。
食料品とエネルギー、政府の価格統制品目(医療・教育)を除いたコアCPI上昇率は同1.9%増(前月:同1.9%増)となり、年明けから概ね横ばい圏の推移が続いている。
斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
【関連記事】
・
【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~13年1月以来の二桁増を記録
・
【インド】紙幣刷新で景気下振れも、政治的には成功か
・
【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(12月号)~3ヵ月ぶりのマイナスも回復基調は継続
・
【東南アジア経済】ASEANの消費者物価(12月号)~緩やかな上昇続き、6カ国揃って前年比プラスに
・
【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~短期的に景気下振れも、17年も消費主導の緩やかな成長が続く