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(写真= dizain /Shutterstock.com)

中国でVPNが禁止というニュースがネットを駆け巡った。実際には「不法にVPNサービスを提供している業者の取り締まりを実施する」という内容だったのだが、在留外国人や観光客であっても「VPNが利用できなくなる?」という不安で、多くの接続業者に問い合わせがくる事態となった。

これだけの騒ぎを巻き起こした「VPN」。このVPNとはいったいどういうサービスなのだろうか。なぜここまでの騒ぎになったのだろうか。

ネット上に第三者が侵入できない仮想ネットワークを作って通信する仕組み

VPNとはバーチャル・プライベート・ネットワーク(Virtual Private Network)の略で、簡単に言うと「インターネット上に第三者が侵入できない仮想的なネットワークを作って通信する」仕組みのことである。

通常インターネットを経由して通信を行うと、改ざん、盗聴やなりすましといった脅威にさらされる危険性があるため、機密性の高い情報をやり取りする場合など、情報の漏えいを防ぐために特にセキュリティに配慮する必要がある。

しかし、そこまで暗号化などのセキュリティ対策を行っていても通信自体はインターネット上を第三者に触れる状態で流れることになり、完全な秘匿性を実現できているものではない。

VPNでは、これらの問題に対して、以下のような画期的なネットワーク環境を実現している。

  1. 盗聴や改ざんを防止するためのデータの「暗号化」
  2. 「トンネリング」技術による通信全体の秘匿化

これによりVPNでは、あたかも通常のインターネット回線と別の専用回線があるかのように通信が行えるため、通常のインターネット上での通信と異なり、完全な秘匿性を確保することができる。

そのため、情報が外部に漏れるといったことや、外部から不正に侵入されることが許されないような会社の各拠点を接続した社内LAN利用や、外出先からのモバイルネットワークを介した社内LANの利用といったことができるようになっている。

現在の情報化社会ではオフィスの中に限らず、外出先からなどでもネットワークにアクセスし、業務を行う業務形態が一般的になっている。そのため、外出先などでも自由に社内イントラネットなどに接続することができるVPNの活用は今後さらに拡大していくことは間違いない。

なぜこんなにニュースになったのか

中国でVPNが使えなくなるかもしれないというニュースが大きく取り上げられたのはなぜだろうか。

今回のVPNの規制では、主に中国国内の無許可のVPN業者が取り締まりの対象となると言われている。

しかし、中国当局が将来的に今回は対象外だと言われている海外のVPN業者についても取り締まりの対象とすることは十分考えられる。というのは、今回のVPN取り締まりの目的の一つがネット検閲逃れを防ぐところにあるからである。

よく知られたことではあるが、中国ではインターネット閲覧は制限され、「当局により許可されたサイトした閲覧できない」、また「閲覧内容も検閲されている」といった問題がある。具体的にはfacebookやTwitter、Googleなどといった我々にとって身近なサイトであっても中国国内では接続できないのである。こういった状況に対してVPNはこれらの制限を回避するために使われている。

当然のことながら中国国内であっても先の章で説明したような企業でのビジネス利用も行われている。したがって、VPN規制が行われることで、ビジネス向けの利用に関しても支障が出るため、中国国内の企業や海外から出張で訪れるビジネスマンなど、さまざまなビジネス利用で問題が出ることが予想される。

したがって、「検閲逃れ」と「ビジネス利用」という2つの側面から影響が大きいがために、今回大きなニュースになったと考えられる。

ネット利用者の5人に1人がVPNを活用している?

「中国でVPNが使えなくなる」。ネット上で衝撃をもって大きく取り上げられたこのニュースは、中国国内でのVPN利用がいかに重要なものとなっているのかということを示す結果となった。

海外からの出張などビジネス目的での利用、国内でのインターネット利用者による検閲を回避するための方法としての利用など、中国でのVPN利用のニーズは高いものがある。実際にGlobalWebIndexの調査では、国ごとのインターネット人口に占めるVPN利用者数の割合で中国は20%という高い数値を占めており、実にインターネット利用者の5人に1人、9300万人もの人々がVPNを活用しているのである。

通常VPNというと先に述べたようにインターネット上をあたかも専用線を使っているかのごとく通信が行えるという秘匿性を生かして企業ネットワークなどで利用されている。しかし、今回の中国のように国家によるインターネット検閲が行われている場合は、検閲逃れという目的で利用されているケースも多い。(ZUU online編集部)