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(写真= Frederic Muller /Shutterstock.com)

国内の新規貸家建設件数が急増している。国土交通省の発表(2017年1月31日)では貸家の建築件数が前年度比10.5%増加、しかも5年連続で増加しているという。「貸家バブル」ともいわれ政府からも過剰供給気味だと懸念されている背景とは?今後の行方はどうなっていくのだろうか。

消費税率引き上げで激減そして相続税制改正で急増

住宅全体の建築件数は消費税率引き上げのあった2014年に一旦減少に転じていた。しかし2015年の相続税制の改正やその後に行われたマイナス金利の実施により、貸家の新規建設が急増したのだ。

相続税の新規定では相続税計算の際の控除額が減額されたことで実質的な増税となった。これまでなら相続税の対象とならなかった人達でも、課税対象となる。増税に伴い株式や現金などで資産を残すよりも不動産で相続したほうが節税になることに注目が集まった。不動産を相続する場合の評価の算出は路線価を使用するため実際の相場よりも6割から8割安い。評価額が明らかな現金や金融資産よりも不動産で資産を残すという人が急増したのである。

マイナス金利や政府の経済政策も加担

そこへ実施されたマイナス金利政策。各金融機関はこぞって新しいローン商品を打ち出して貸し出し先を探さなければいけない状況となった。最も活発化したのはアパートローンの拡大だ。未経験者でも融資が受けやすくなり不動産賃貸経営などまったく経験のない、素人大家による貸家建設増加への後押しとなっていった。

サブリース契約システムや低金利によるフルローンを使った貸家経営向けのセミナーが全国各地で行われている。高属性のサラリーマンや老後の生活資金作りをしたい夫婦など個人で初めて貸家経営をするという人の参加が目立つ。果たして賃貸経営セミナーで教わった通りの資産運用が可能なのだろうか。

既に貸家バブル崩壊の兆しはそこまできている?

不動産投資家の間では既にこういった貸家バブルで建築した人達の経営難がささやかれている。相続税対策を名目に建築させたい不動産業者とアパートローンを組ませたい銀行のアプローチとで、セミナーで得た知識だけで貸家業を始めてしまう。中にはサブリース契約で始めたにも関わらず、空室の物件を抱える大家もいるという。家賃保証システムだと言っても空室が続けばサブリース会社も資金ショートしてしまう。結局家賃の値下げや新築なのに更なる設備投資を余儀なくされるのだ。

貸家バブルで建築している物件のほとんどが1室30平方メートル以下の小規模であることもネックになる。元々土地などを相続している代々大家ならばまとまった規模の貸家建築も可能だが、土地から取得して建設するのは容易いことではない。その結果、建築費を抑えた狭小貸家ばかりが増えていく構図になる。狭くて特徴のない貸家が急増すると経営難に陥る新米大家が続出するのも時間の問題となる。

全国の空き家は800万戸あまり、少子高齢化と人口減少

相続税対策に躍起になる前にまず今日本が空き家だらけであることを忘れてはいけない。しかも800万戸余りのうち約半数以上が貸家での空き家だ。税制対策とマイナス金利の活用という文句だけに惹かれて、こんなに貸家が多すぎるという厳しい市場にわざわざ飛び込んでいるとの認識が必要だ。

節税対策よりも儒共バランスの見極めが貸家経営のポイント

相続税対策で貸家を建設する人は単純に毎月満室で得られる家賃を想定した利回り計算を業者に提案されている。確かに新築なら最初の5年は空室の心配はいらないと数年前までは言われていた。しかしこれも既に幻となりつつある。現実は都市部の新築の貸家であっても空室を抱える事例が多数発生している。

これからの貸家経営はどれだけ空室を埋め続けられるかにかかっている。人より貸家のほうが圧倒的に多く空室は益々増加するとみられているのだ。政府の見方でも賃貸住宅の滞在需要と着工戸数のバランスでは今後滞在需要が着工戸数を下回り続けるとみられている。

一方でこのような貸家住宅の状況下で常に満室経営している大家も少なくない。代々の大家業ではない個人で不動産投資を始めた初代大家たちである。彼らと相続税対策などで貸家建設をして空室に悩む投資家との違いはなにか。

収益性重視で節税対策はオプション的にとらえる

貸家経営を節税対策という切り口で始めてしまうからすぐに息詰まる。「最悪でも税金が減らせれば」という目的では収益性のある物件には仕上がらない。近隣の空室率、建設する間取りや物件の特徴を念入りに検討し、常に満室経営できるような構図の貸家にする必要がある。その上で不動産投資の税務に詳しいプロと節税面でのシミュレーションを立てるという順序で計画するべきなのだ。
貸家が増え続け空室率が高い環境。それでも自身の貸家には安定した入居率を維持できるという大家業的スキルをまず磨かなければならないのである。(片岡美穂、行政書士・元土地家屋調査士)