銀行API,
(写真= Panchenko Vladimir / Shutterstock.com)

フィンテック分野で注目されているテーマの一つが、銀行によるAPI(Application Programing Interface)の公開だ。金融はお金の流れを基盤とするビジネスであるため、1つの会社だけではサービスが完結せず、他社との連携を視野に入れる必要がある。そのため、他社との連携を行うためにAPIを公開する銀行が増えているのである。

銀行がAPIを公開するとどうなる?

そもそも、APIとは複数のシステム間でデータをやり取りする際のルールとプログラミングコード自体を指す。APIを使わずにデータのやり取りをする場合は、一から仕様を決め、プログラミングコードを書かなければならない。

しかし、APIを使えば、決められた処理を呼び出すだけです済むため、システム開発の手間が省けるのである。

銀行がこのAPIを公開すると、銀行の情報を使った新たなサービスを消費者に届ける事が出来るようになる。FinTechでサービスを行う企業は一般的に、(a)基盤になる事業を提供する企業(銀行や証券会社等)、(b)その情報を使ってユーザー向けにサービス提供をする企業(freeeやマネーフォワードなど)に分類する事ができるが、銀行がAPIを公開すると、(a)と(b)の間でデータを連携する事が可能になるのである。

ただし、銀行のAPI公開は、特定の事業者のみにAPIを公開するクローズな公開となっている。FinTechでは利用者の資産の情報をやり取りするため、ミスや事故が起こると金融の根幹を崩す危険性をはらんでいる。そのため、実際にサービスに関わる事業者のみに公開するクローズな公開の方法を、銀行は取っているのである。

銀行によるAPI公開の事例

有名な事例には、みずほ銀行とLINEの提携による口座照会サービスがある。みずほ銀行の公式アカウントの画面上で、専用のスタンプ(「入出金教えて!」「残高いくら?」等のスタンプ)を送ると即座に口座残高や直近の10取引の入出金明細が確認できる。PINや暗証番号入力の必要もない。残高照会と入出金の照会という使用頻度の高いサービスをLINE上で簡単にできるようにした事に意味がある。

また住信SBI銀行とマネーフォワードの連携の例もある。入出金やクレジットカードの履歴をもとに家計簿を作成して、どのようなカテゴリに支出が多いのかを明らかにする事が出来るのである。又、カレンダ―と紐づけてどの時期に支出が多いのかなどの分析もできる。さらに預金、株式、投資信託などの様々な種類の資産を一括管理してポートフォリオ毎に表示し、資産全体の推移を確認するサービスも提供されている。

三菱東京UFJ銀行は2016年3月に、ハッカソン(ソフトウェア開発のプログラマやデザイナー、設計者等が集まって開発を行うイベント)を開催した。イベントでは、ハッカソン向けに公開されたAPIを活かしたアプリ、サービスの開発を行い、小口現金の管理をスマホで行うサービス、預金残高の端数を手軽に募金するサービスなどが賞に選ばれた。

これらのサービスは、未だ実現はされてはいないものの、APIが公開された際のFinTechの可能性を示すものとなった。三菱東京UFJ銀行は、この後、イベントに参加したfreeeとの業務提携で与信サービスを行う事を発表している。

政府の銀行API公開に対する対応方針

銀行は社会インフラとしてAPIを公開すべきという議論がある。実際に政府はFinTechに関しては「推進」の姿勢を示していた。

「平成27事務年度 金融行政方針」では、FinTechに速やかに対応する方針を示し、FinTechサポートデスクを設けてスタートアップ企業を支援する等の対応を行ってきた。

しかし、2017年に金融庁が、銀行のAPI公開を義務とする改正銀行法を国会に提出しようとしたところ、自民党の反対にあい、暗礁に乗り上げた。一定の基準をクリアした事業者を「電子決済等代行業者」として登録し、銀行は登録された電子決済等代行業者に対して、API公開の義務を負う、という内容のものだったが、自民党はこの登録制度が「過剰規制」にあたるとして反対を表明している。

このため、今まで日本では官民一体となって、FinTehchの推進をしてきたが、ここへ来て一気に停滞してしまった感がある。

銀行がAPIを公開する事による問題点

この様に、銀行がAPIを公開すると新たなサービスが生まれ、利用者の利便性が高まる事が期待される。しかし、セキュリティに関する懸念は、まだ解消されていない。銀行と外部事業者が接続すれば新たなセキュリティーホールが生じる可能性があるが、万が一の際の責任の所在、補償分断を明確にするための法的整備も整っていない。

銀行は、FinTechによる新たなサービスを提供して、縮小した国内市場での収益拡大を狙っている。しかし、利用者のセキュリティに関する懸念を払拭する事が出来なければ、利用拡大は進まないであろう。

世界的に見て、APIを公開している銀行の数はそれほど多くはない。そのため、もし日本で多くの銀行がAPIを公開し、それによる多様なサービスが提供される市場を作る事が出来れば、独創的なアイディアを持つ多くのスタートアップ企業の海外からの誘致ができ、経済の活性化が期待できる。NTTデータやIBM等の大規模ベンダーが、セキュリティ対策を積極的にサポートするという動きもみられるため、今後の動きに期待をしたい。( FinTech online編集部

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