上海総合指数は高値更新を目前に足踏み状態である。2月23日の高値3264.08ポイントを小天井として弱い押し目を形成したが、3月13日に急反発、2016年11月29日の高値超えを目指す展開となっている。ただし、3月17日は前場の段階で上値が重く高値超えに失敗すると、後場から大きく売られ、1.0%下落した。

ここ数カ月の値動きを示せば、2016年11月29日の場中で記録した3301.21ポイントを高値に一旦下落したが、12月下旬、2017年1月中旬をダブルボトムとして底打ちし現在、リバウンドを続けている。

企業家心理は強気に、ファンダメンタルは改善

国家統計局、中国物流購買聯合会が発表した2月の製造業PMIは51.6で、7か月連続で景気の拡大縮小の分岐点となる50を上回っている。1月との比較では0.3ポイント改善している。また、本土の市場コンセンサスとの比較では0.4ポイント上回っている。製造業の景気見通しは予想以上に好転している。

細目指数の状況を示せば、製品在庫、原材料在庫ともに改善している。在庫調整は終わりに近づいている。受注、とりわけ新規輸出受注の回復が目立つ。輸入指数も拡大(50以上)・改善(前月と比較)、外需に加え内需も回復が鮮明だ。こうした状況で企業家心理は強気に傾き、生産は拡大・改善している。

景気の拡大傾向は、1、2月の経済統計をみても明らかである。1、2月の鉱工業生産は6.3%増で、2016年12月と比べ0.3ポイント改善、本土市場コンセンサスを0.1ポイント上振れしている。需要項目で注目されるのは投資である。2月累計の全国固定資産投資は8.9%増で、2016年の8.1%増と比べ0.8ポイント改善しており、市場コンセンサスを0.7ポイント上振れしている。

業種別では、製造業の伸びが弱く、水準も低いが、これは素材産業を中心とした供給過剰産業に対する投資抑制効果が大きいからだ。一方、水利・環境・公共施設や、交通運輸、倉庫、郵政事業といったインフラ投資絡みの投資が急増している。不動産投資の改善や、これまで弱かった民間投資も力強い伸びを見せている。政策の効果が現れており投資は好調だ。良好なファンダメンタルズ、その背後にある適切な政策や、現れ始めた政策効果などが、主な買い材料である。

上海総合指数の上値を抑える2つの要因

一方で売り材料も存在する。主に株式需給に作用する悪材料が2つほどある。

ひとつめに、景気は足元で明らかに回復しているものの、不動産バブル、株式バブル、銀行による理財商品の急拡大を政府は徹底して抑えようとしており、一方で、供給側改革に代表される構造改革を加速させようとしている。これ以上の力強い景気の回復は望めない。

先日行われた全国人民代表大会(全人代)で発表された政府活動報告をみると、成長率目標が2016年の6.5~7.0%から2017年は6.5%前後に引き下げられている。

全人代で若干の細かい修正を受ける前の3月5日に李克強首相が発表したベースの全文をみると、「二、2017年における活動全体の計画」において、しっかりと把握しておかなければならない点を5つほど指摘している。それらの大意をまとめると、「成長を追い求めず、経済社会を安定させる。投機を排除しバブル発生を防ぎ、経済の無駄を省き、構造改革を進める。その上で、景気に配慮し、イノベーションを加速する」といった内容だ。

中国は社会主義国家であり、日本とは経済体制が大きく異なる。多くの日本人は「景気とは循環するものであり、政府はその変動をできるだけ小さくするような形で関与するのが望ましい」と考えている。長期の成長戦略はあくまで規制緩和などを通して民間の活力を高める形での関与に過ぎない。その点、中国では五カ年計画が存在し、1年単位の計画が存在する。共産党が主導し社会経済のグランドデザインが作られ、それに沿って政府が経済運営活動を行う。

ふたつめに、株式市場に対する影響が最も大きいのは金融政策が影響している。2016年以降、インターバンク市場金利が長めのものを中心に上昇傾向となっている。中国人民銀行は3月16日、リバースレポ取引、MLF(Medium-term Lending Facility)を行い、合計3830億元の資金を供給したが同時に、金利については一律10ベーシスポイント引き上げている。

米国の利上げに対応し、米中名目金利差が開かないようにし、人民元対ドルレートの下落圧力を封じる意図があると同時に、銀行に対するレバレッジを縮小させるといった従来政策の実行、不動産価格の下落が緩やかであることや、信用貸出の増勢が衰えないことへの警戒感も利上げ要因の一つである。

ファンダメンタルズが改善している以上、株価には自然と上昇圧力がかかる。しかし、それを政策、特に金融政策が抑えているといった状態が今の上海総合指数である。もっとも、政策効果が表れ、構造改革が進んでいるのだ。本土市場は短期投資家にとっては少々物足りないかもしれないが、長期投資家にとっては十分魅力的である。

日本株における中国関連株について。3月17日現在(終値ベース)の日経中国関連株50指数の動きをみると、今年(2016年12月30日との比較)に入ってからでは3.8%上昇しており、同じ時期の日経平均を1.7ポイントほどアウトパフォームしている。

中国経済の成長率は日本と比べ高い。その分、中国ビジネスに強みを持つ企業の経営環境は良好である。構造改革が進み、成長の安定度が増すのであれば、それは経営の安定に繋がる。中国関連株優位の状況がしばらく続きそうだ。

田代尚機(たしろ・なおき) TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。HP: http://china-research.co.jp/