保険料、航空会社の燃油サーチャージ、オリーブ油などが、春の訪れとともに4月から値上げを控える。

消費者の財布の紐がますます固くなっていきそうな中、節約料理で金欠の強い味方「もやし」にも値上げの波が押し寄せようとしている。食卓の強い味方のもやしに何が起きているのか。

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(写真=PIXTA)

原料価格3倍に高騰も小売価格は下落

まだ寒さの残る3月上旬、「もやし生産者の窮状について」と題された文書が出回った。文書をまとめたのはもやし生産者協会で、小売店などの取引先に対し、もやしを適正価格で取引するように求めた。その文書が同協会のホームページにもアップされ、業界が置かれている状況が明らかになった。

同協会によると、もやしの原料となる緑豆の種子が収穫期に雨が降った影響から、高品質の種子の収穫量が激減し、原料価格が2005年と比較すると、17年1月は約3倍に跳ね上がった。さらにこの間の最低賃金は約20%上昇したにも関わらず、もやしの小売価格は約10%下落したという。

日本国内で消費されるもやしは緑豆、ブラックマッペ、大豆を原料としており、いずれも生産地は中国、ミャンマー、アメリカなど海外が中心となるため、円安による輸入価格の上昇の影響も受ける。

こうした状況の下、生産者にかかる負担は大きく、企業努力でコストを吸収できるレベルではなくなりつつあるという。実際に、収益の悪化から09年に230社以上あったもやしの生産者は、およそ半数近くの130社を下回るまでの水準になり、廃業が相次いでいる。

もやしの値段が上がらないワケ

もやしの生産者が厳しい経営に追い込まれる中、コストの上昇が小売価格に適切に反映されない背景はどこにあるのだろうか。

もやしは野菜に分類されるが、屋外の土壌で育てられるではなく、室内の光を遮断した容器の中で栽培される。種子の洗浄から栽培、洗浄、袋詰めなど一連の工程は工場内で実施する。栽培にはコンピューターを導入するなどハイテク化も進み、多くの工場は年中無休、24時間体制で生産体制を組んでいる。

他の野菜とは異なり、工場での生産のため、天候の影響を受けず、さらに栽培から出荷までに要する期間はわずか1週間ほどで完了する。

こうして、生産性が向上したことなどにより、もやしの生産量は大きく伸びている。もやし生産者協会によると、1975年度は23万3000トンだった生産量が、14年度には43万7000トンまでに伸びた。生産量の増加に比例して、もやしの購入量も増え、同協会が総務省の家計調査からまとめたデータでは、2人以上の世帯の年間のもやし購入量は06年5609グラムから、16年は6528グラムと10年で15%ほど伸びている。

一方、天候の影響を受けず、短期間で生産できるため、他の野菜が収穫不足で高騰した際には、野菜不足を補う役割が求められる。記憶に新しいのが16年の秋以降、天候不順により野菜が高騰し、足元では価格は落ち着きを取戻しつつあるが、この間にもやしを代替品として頼った消費者も多かったのではないだろうか。

天候に左右されず安定供給できるもやしは、他の野菜が収穫不足に陥ったり、高騰したりした際は、ピンチヒッターとして登場する機会が増える。しかし、迅速かつ安定供給できるメリットが、行き過ぎた事態を引き起こしている例もある。

スーパーなどの小売店では、野菜が高騰した際、消費の落ち込みをカバーするため、もやしにその役割をかける。客引きのために目玉商品となったもやしは、1袋1円など、生産コストを度外視した値段で販売されることも珍しくない。こうした安売りは、小売店の仕入コストに影響し、さらには生産者の卸価格にもしわ寄せが及び、原材料価格高騰や人件費の上昇をもやしの価格に上乗せしづらい環境に繋がってしまう。

消費者マインドの変更でもやし存続

コストの上昇が価格に反映されず、生産者が減少する状況では、将来、食卓からもやしが消滅する危機さえ叫ばれる。スーパーなどの安売りに慣れきった消費者も、今一度、適正価格を見つめ直すときが来ているのかもしれない。

安さが強調されるもやしだが、食物としてはカルシウム、カリウム、ビタミンC、ビタミンB1、食物繊維を含む上、ヘルシーで健康にもよいとされる。「もやし=安い」から、消費者マインドをスイッチさせ、もやしが適正な価格で取引される環境を消費者が醸成し、価格の上昇を受け入れることがもやしの存続を左右する一策ともなるだろう。

もやしは、平安時代に書かれた薬草の本にも紹介され、江戸時代には長崎から江戸にもやしが広まり、天下の珍味として将軍にも献上されるなど長く日本人に親しまれてきた食材だ。伝統あるもやしが直面する危機に耳を傾けるときが来ている。(ZUU online 編集部)