アベノミクスでは医療分野を成長産業と捉え「一丁目一番地」に位置づけており、技術革新による新薬開発等を政府からサポートしていくことを明言しています。こうした中、アステラス製薬では7期連続の増配が決まりました。アステラス製薬のこれまでの取り組みと強みについて分析して今後を展望していきます。

新薬開発に向けた巨額投資と製薬会社の統合・再編

国内の製薬会社はこれまで多くの再編、統合、買収を繰り返してきました。代表的なものとしては、2007年の三共と第一製薬の統合、同年の田辺製薬と三菱ウェルファーマの合併、また2008年のエーザイによる米「MGIファーマ」の買収、同年の武田薬品工業による米「ミレニアム・ファーマシューティカルズ」の買収等です。

こうした動きの背景としてあるのは、海外企業への対抗です。例えば、スイスの「ノバルティス」や「ロシュ」、米の「ファイザー」や「メルク」、そして英「グラクソスミスクライン」などは、いずれも売上高3兆円を超える巨大企業です。潤沢な資金力を背景に研究開発を強化する海外企業に対抗するために、国内企業は近年既存企業の買収により海外市場を開拓したり、研究開発の効率化により新薬の開発を加速してきました。特に、近年では、薬の承認審査の厳格化や技術革新の停滞などにより、新薬の創出が難しい環境になってきているのが実情です。

製薬業界は1つの大型新薬が長期にわたって1企業の業績を急変させるという特徴があります。自社開発した新薬の利益率が90%を超えるケースも珍しくはありません。従来の治療体系を覆す薬効を持ち、圧倒的な売上高をたたき出し、その売上に比例する莫大な利益を生み出す新薬を「ブロックバスター」と呼びます。米ボストン・コンサルティング・グループでは、ピーク時の世界での売上高が5億ドル以上の医薬品をブロックバスターと定義していますが、製薬会社にとってはこの「ブロックバスター」を開発することが1つの鍵といえます。

アステラス製薬の課題

製薬業界には「パテントクリフ(特許の崖)」という特有の課題があります。これは主力製品である医薬品の特許が切れて当該製品と同じ有効成分が含まれたジェネリック医薬品(後発品)が別の製薬会社から発売されるために、売上が急激に減少するという現象です。

アステラス製薬においても、過去にパテントクリフの課題に直面してきました。例えば、2010年に排尿障害治療薬「ハルナール」の特許が切れて業績が悪化しました。しかし、2011年の過活動膀胱治療薬「ベタニス」、2012年の抗がん剤「エンザルタミド(欧米での製品名、『エクスタンディ』)」といった有望な新薬の発売により好業績を維持してきました。

アステラス製薬は、再び「パテントクリフ」の課題に直面しつつあります。2018年にアメリカにおいて主力製品の1つである過活動膀胱治療薬の「ベシケア」の特許が切れます。その影響は1000億円レベルの売上の減少に及ぶ可能性があるため、それを埋める新薬の開発が必要になります。そのためには投資の選択と集中による効率的な研究開発体制の構築が求められることになります。