「がん領域」への選択と集中

新たな収益源を確立するためにアステラス製薬は、「がん領域」の新薬開発に投資を集中する戦略を取ってきました。先述のように統合と再編が行われてきた製薬業界の中で、アステラス製薬は、旧山之内製薬と旧藤沢薬品工業が合併することにより生まれました。合併する前の旧山之内製薬や旧藤沢では、研究開発費が不足していたため巨額の研究開発投資を行うことは出来ませんでした。しかし両者は合併することによって、アステラス製薬となり約1400億円以上の費用を確保することに成功します。以降「泌尿器領域」、「移植領域」に次ぐ第3の柱として「がん領域」に投資を集中してきました。

M&Aによる新たな経営資源の獲得へ

新薬の開発をゼロから行うには成果が生まれるまでに何十年もかかってしまう可能性があるとの考えのもとアステラス製薬は、米「アジェンシス」や「OSI」など、「がん」に強いベンチャー企業の買収を行い、最先端の基盤技術や開発品などのノウハウを積極的に導入していきました。

2012年度に発売した「エンザルタミド」もベンチャー企業から買収したものです。「エンザルタミド」は前立腺がんの治療薬ですが、2012年秋以降「化学療法前に投与した患者」への投与において優れた臨床試験成績があると発表されました。2013年に前立腺がんの治療薬として「エンザルタミド」の承認を厚生労働省に申請し欧州でも承認の申請を行い、日米欧で展開して同社のがん分野での収益の柱に育ててきました。「エンザルタミド」の将来のピーク売上高は4000億円を超える可能性が高いという見方もあり、非常に有望かつ同社の強みとなる製品の1つと言えるでしょう。

iPS細胞の活用した最新の研究開発

アステラス製薬では最近、iPS細胞を活用した医薬品の研究期間の短縮に取り組んでいます。開発した新薬を人間に投与する前に培養細胞で安全性を見極める基礎研究を現状の5年から約2年に短縮する狙いです。iPS細胞を新薬の研究に使う専門組織「再生医療ユニット」を2014年4月に設立しました。組織は約20人で構成し外部専門家なども研究者として招く方針です。こうした新薬開発の効率化が今後成功すれば大きな強みになると期待されます。