要旨

  1. 中国経済の成長率が加速してきた。中国国家統計局が公表した17年1-3月期の実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で上昇、3月開催の全国人民代表大会で決めた成長率目標「6.5%前後」を上回る好スタートとなった。また、名目成長率は前年同期比11.8%増と2013年10-12月期以来の2桁成長復帰となった。一方、インフレ面を見ると、消費者物価は前年同期比1.4%上昇と落ち着いているものの、工業生産者出荷価格は同7.4%上昇した。
  2. 供給面の動きを見ると、17年1-3月期の工業生産は前年同期比6.8%増と16年10-12月期の同6.0%増を大きく上回り、2014年以来の高い伸びとなった。製造業PMIは16年2月の49.0%を底に17年3月には51.8%まで回復、非製造業PMIは55.1%と高水準を維持した。
  3. 需要面の動きを見ると、17年1-3月期の消費は小型車減税縮小の影響で16年10-12月期の伸びをやや下回ったものの堅調を維持している。17年1-3月期の投資はインフラ投資が牽引して2四半期連続の加速となった。また、世界経済の回復を受けて輸出は底打ちし、17年1-3月期は前年同期比8.2%増と16年10-12月期の同5.2%減からプラスに転じた。
  4. 以上のように景気は回復したものの、金融緩和の副作用で住宅バブルが深刻化した(下左図)。16年秋には地方政府が相次いで住宅購入規制を強化、17年3月の全国人民代表大会(国会に相当)では金融政策を16年の「穏健」から「穏健・中立」へと引き締め方向に変更した。また、中国人民銀行は17年1月下旬以降、オペ金利を2度に渡り引き上げている(下右図)。
  5. 中国政府は、住宅バブル退治や小型車減税縮小など景気にブレーキを踏む政策を実行、高成長へ復帰するよりも安定成長を長く続ける「新常態」を選択した。しかし、住宅バブルは依然として膨張を続けており抑制効果は十分とは言えない。基準金利引き上げなどもう一段強いブレーキを踏むことができるのか、「新常態」の本気度が試される局面となりそうだ。

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2017年1-3月期の経済概況

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中国経済の成長率が加速してきた。4月17日に中国国家統計局が公表した17年1-3月期の実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で上昇、3月開催の全国人民代表大会(国会に相当)で決めた成長率目標「6.5%前後」を上回る好スタートとなった(図表-1)。内訳を見ると、第1次産業は前年同期比3.0%増、第2次産業は同6.4%増、第3次産業は同7.7%増だった。第3次産業が引き続き最も高い伸びを示し中国経済を牽引した。また、ここもと足かせとなっていた第2次産業も、16年1-3月期の伸び(同5.9%増)を底に持ち直しつつある。

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また、国内総生産(名目)は18兆683億元(日本円に換算すると約298兆円)と、16年1-3月期の16兆1573億元を1兆9110億元上回り、前年同期比11.8%増となった。これは2013年10-12月期の同10.6%増以来となる2桁成長復帰である(図表-2)。鋼材や石炭などの価格上昇で実質的には付加価値が目減りしているとはいえ、2桁成長復帰は景況感を明るくしている。

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一方、インフレ面を見ると、消費者物価は落ち着いているものの、工業生産者出荷価格は上昇した(図表-3)。17年1-3月期の消費者物価は前年同期比1.4%上昇と2016年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。好天候に恵まれたことで食品が同2.1%下落したことが主因である。食品とエネルギーを除いたコアでは同2.0%上昇と16年10-12月期の同1.9%上昇を小幅に上回った。他方、17年1-3月期の工業生産者出荷価格は前年同期比7.4%上昇と16年10-12月期の同3.3%上昇を大きく上回った。資源高や人民元安といった価格上昇要因もあるが、中国政府が進めた過剰生産能力の削減に伴う供給減と、中国国内のインフラ投資加速に伴う需要増で、需給バランスが改善した面もある。このように供給過剰によるデフレ圧力は薄れてきたものの、鋼材価格は3月中旬をピークに下落に転じており、世界経済や不動産開発の動向次第では再び過剰感が強まる可能性も否定できない。需給バランスの変化には今後も注意が必要である。

製造業は順調な回復、非製造業は堅調維持

工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると、17年1-3月期は前年同期比6.8%増と16年10-12月期の同6.0%増(推定(1))を大きく上回り、2014年以来の高い伸びとなった(図表-4)。内訳を見ると、鉱業は前年同期比2.4%減と2016年通期の同1.0%減に続く前年割れだったものの、製造業は同7.4%増と2016年通期の同6.8%増を0.6ポイント上回り、電力エネルギー生産供給業も同8.9%増と2016年通期の同5.5%増を3.4ポイント上回った(図表-5)。

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また、製造業・非製造業の区分で見ると、製造業は順調に回復してきており、非製造業は堅調を維持している。製造業PMIは、景気が失速しかけた16年2月には拡張・収縮の境界となる50%を割り込み49.0%まで低下したが、17年3月には51.8%まで回復した。特に生産指数が54.2%と好調だった。同予想指数も58.3%と高水準を維持しており、製造業の回復は当面続きそうである。(図表-6)。一方、商務活動指数(非製造業PMI)は、17年3月も55.1%と高水準を維持した。同予想指数も61.3%と高水準を維持しており、非製造業の堅調は当面続きそうである(図表-7)。

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1)中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
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消費はやや減速、投資は回復、輸出は底打ち

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消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比10.0%増と、16年10-12月期の同10.4%増(推定)を0.4ポイント下回った(図表-8)。特に自動車売上高が前年同期比2.3%増と10-12月期の同13.1%増(推定)を大きく下回った。17年に入って小型車(排気量1.6L以下)を取得する際に掛かる自動車取得税が引き上げられた(5%⇒7.5%)影響と見られる。他方、飲食は同7.3%増(10-12月期は同5.4%増(推定))、化粧品は同9.9%増(10-12月期は同8.0%増(推定))と好調なものが多い。また、消費者信頼感指数が高水準を維持していることから、消費が大きく落ち込むとは考えにくい。

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投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比9.2%増と、16年10-12月期の同7.8%増(推定)を1.4ポイント上回った(図表-9)。インフラ投資が同23.5%増と10-12月期の同11.4%増(推定)を大きく上回ったことが背景にある。但し、不動産開発投資が同9.1%増と10-12月期の同10.2%増(推定)を下回ったのに加え、17年に入り新しく着工したプロジェクトが減少に転じたことから、投資の好調は長続きしない可能性がある。

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海外需要の代表指標である輸出額(ドルベース)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比8.2%増と、16年10-12月期の同5.2%減からプラスに転じた(図表-10)。米国経済の拡大を受けて、米国向け輸出が同10.0%増と好調だったほか、欧州EU向けも同7.4%増、ASEAN向けも同11.4%増と高い伸びを示した。但し、輸出の先行指標となる貿易輸出先行指数(中国税関総署)を見ると、17年3月は40.2%で前月と同じだった。15年12月の31.2%を底に上昇傾向を続けてきたが、先行き不透明感がでてきた。世界経済の動向を注視したい。

金融政策は「穏健」から「穏健中立」へ

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以上のように景気は回復してきたものの、金融緩和の副作用で住宅バブルが深刻化してきた。ニッセイ基礎研究所で何年分の所得で住宅を購入できるか(住宅価格÷所得の倍率)を試算したところ、全国では約7.5倍だが北京や上海では14倍を超えている(図表-11)。合理的とされる4~6倍を遥かに超えるとともに、日本でバブルがピークを付けた1990年の東京都区部の16倍に接近してきている(2)。

これまでの住宅価格(70都市平均)(3)の推移を簡単に振り返ると、前回高値を付けた14年5月前後にも住宅バブルは問題となっていた。13年春には、中国政府が住宅価格の急騰を抑えようと「国五条」と呼ばれる住宅購入規制を実施した上で監視を強化した。その効果で、住宅販売が落ち込むと住宅在庫は積み上がり、販売業者が在庫を消化しようと値引き販売に走って住宅価格は下落、景気を一気に悪化させた。これを受けて14年11月以降、中国人民銀行は基準金利を6度に渡って累計1.5ポイント引き下げ、景気下支えに動き出した。この金融緩和で住宅販売は持ち直し、住宅在庫は減少に転じて住宅価格は上昇、16年7月には前回高値を超えてきた(図表-12)。しかし、16年の成長率目標(6.5-7.0%)の達成が不安視されていた中で、中国人民銀行は「穏健」な金融政策を継続したため、住宅価格は最高値更新を続け、住宅バブルを深刻化させる結果となった。

但し、景気テコ入れには成功したといえる。住宅販売・住宅着工の回復で鋼材需要が増加、鋼材価格は15年12月の底値を基準にすると17年3月の高値まで約2倍に急騰した(図表-13)。需要が増加したことで、過剰だった生産能力との需給バランスも改善に向かった。

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住宅バブルが深刻化する中で、中国政府は経済政策を引き締め方向に調整し始めた。16年9月末前後には深?市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化した。また、同年10月には中国人民銀行が商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。そして、同年12月には中央経済工作会議で「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出し、17年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移すこととなった。そして、全人代閉幕後にも、地方政府が相次いで住宅購入規制の強化に動いている。また、中国人民銀行は17年1月下旬以降、リバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2度に渡り引き上げており、基準金利の引き上げも視野に入ってきている(図表-14)。

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(2)住宅バブルに関しては「 図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点 」基礎研レター 2016-11-1を参照
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3)住宅価格は、中国国家統計局が毎月公表する「70大中都市住宅販売価格変動状況」の中で、新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)を用いている。また、2016年1月以降の2010年基準指数及び70都市平均を定期公表されてないためニッセイ基礎研究所で推定している。
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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