鹿児島銀行 <8390> が国内金融機関としては初めて、音声入力による「声紋認証」する技術を使って、声で本人確認するバンキングサービスを10月から導入するという。朝日新聞が報じた。これによって利用者は、スマホのアプリを使う「ログイン」や「振り込み」の際に、簡単に本人確認ができるようになる。

具体的には、スマホにあらかじめ「明日の天気はどうですか?」「今日買い物に行きませんか?」など、日常よく使う言葉を記憶させておけば準備完了。基本的には契約者番号、パスワード、暗証番号などを打ち込まず、言葉だけでログインできる仕組み。

声紋認証eバンクは児島銀行が初

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(写真=PIXTA)

鹿銀のインターネットバンキングは「eバンクサービス」と略称され、本人確認は声紋認証だけ。同行のネットバンキングにはすでに8万人の契約者がいるが、eバンク導入によって若い世代を中心に新規顧客の獲得が期待されるという。

実用化を実現した企業の1つである米国のニュアンス・コミュニケーションや野村総研、サザンウィッシュの3社が鹿銀のシステムを構築している。音声認証は指紋などほかの認証法より精度が落ちるとの懸念はあるが、それを払拭する努力が進んでいる。事実、一卵性双生児以外なら、本人が風邪をひいてガラガラ声でも、声の高低に差があっても認証できるまで進歩しているという。

認証は次のように進む。スマホのアプリのロックを解除して、記憶させた「あしたの天気はどうですか」という言葉を読み上げれば、後は4桁の暗証番号だけでログインできる。振り込みの際は、ランダムに表示される5桁の数字を読み上げ、暗証番号を打ち込むだけ。

生体認証は電子商取引の常識に

そもそも声紋認証はバイオメトリック認証(生体認証)の1種である。虹彩、指紋、顔などの認証もすべて生体認証である。ただし指紋や顔写真を取られるのは抵抗を感じる人が多く、声紋認証が普及する素地はあった。

音声認証の研究は、1962年にベル研究所の研究者が「サウンドスペクトログラム(声紋)」による声の識別の可能性を発表したのが始まり。1990年代から日米中心に実用化が始まり、電子商取引が本格化する21世紀に注目される技術になった。

本格導入進めばなりすまし防止などに有効

このところ銀行のクレジットカード偽造事件初め、ネットバンキングやモバイルバンキングでの「なりすまし」詐欺事件が急増し、安全、確実な本人確認手段の必要性が高まっている。そのためにも暗証番号、パスワードなどによる本人確認手段のほかに、指紋認証や指先・手の平の静脈パターン認証、声紋認証など、生体認証の本格導入が進んでいる。

ATMの指紋認証や静脈パターンによる認証は、すでに都市銀行を中心に実用化されているが、鹿銀の声紋認証は先駆的試みとして注目される。生体認証の誤認証率は現在までに0.01%-0.1%という。鹿銀の導入は、成果が実証されれば、金融コミュニティーの中で、声紋認証など生体認証導入への雪崩現象が起きる可能性は十分ありそうだ。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)

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